「こ…これはひどい…」

クリスマスの前日、満面の笑みのオサムちゃんに呼び出され、絶対何か企んでいるなと用心していけば、適当にたたまれた真っ赤な衣装を手渡された。さわり心地はもこもこしていて暖かそう。白のファーやボタンも可愛らしい。

…うん、何故かわからないけどサンタクロースの衣装だったんだよね。一層笑みを深くしたオサムちゃんが言うには、明日これを着て部室に集合なんだって。集合ってことは部員もいるってことなんだよね…。なんかもうおわった。私のクリスマスおわった。

で、試しに着てみたわけよ。それで冒頭に戻るんだけど、ズボンならまだしもワンピースだったわけでさ、すごく寒いの。いやいや問題はそこじゃない。肉だよ肉。スカートからお中元で贈るようなハムが覗いてんのよ。

「…これはひどい」

二回も言いたくなっちゃうくらい見せられたもんじゃないよこれ。自分の体型は普通だと思っていたけど、あまり足を出したことのない私はこのスカート丈に絶望してしまったのかもしれない。無理だよオサムちゃん私行きたくないよオサムちゃん。

しかし願いに反して時は経つもので、ついに約束の時刻が近づいてきてしまった。さすがに家から衣装を着ていく勇気はなかったので部室の更衣室で着替えることにした。

時間に余裕を持ってきたせいかまだ誰も来る気配はない。そうだよだってクリスマスだよ?みんな個人で予定があるだろうに何が悲しくて聖なる日まで部員と顔を合わせなくちゃいけないんだよ。そして私もその中の一人だということに気がついてさらに気が落ちた。

さあ、衣装に身を包んだし帽子もかぶってサンタさんになりきった。吹っ切れたよもう。何でもやってやるさ。
しかし一向にやってこない部員に暇な時間を持て余していた私はソファーに座った。やわらかい座り心地が地味に眠気を誘う。…ちょっとだけならいいかな、まだみんな来る気配ないし。

強くなる睡魔に負けて私は深い闇に落ちたのだった。


***


あれ…なんだか苦しい。身動きがとりづらくなってる…?

「ん……?」
「おはよーさん」
「………、何がどうなってこんな状態になった」

ぼやける視界がクリアになるまで少々時間を要したが、目の前にはチカチカするほどの真っ赤な衣装を身にまとった男がいて私は目を見開いた。つまりこの男は私と同じくサンタクロースの格好をしているわけだ。立派なおひげはついていないけれど。

とにもかくにも、私に馬乗りしているこの男をどうにかしたいのだが、やっぱり何かで巻かれていて身動きがとれない。しかも説明を求めても口を開かない男はじっとこちらを見つめてくるだけなのだ。

「………」
「……………」

き、き、き、気まずっ!
視線が男の顔と天井を泳ぐ。ていうかよく見たらこのピアス財前じゃね?ああ絶対そうだ、財前じゃないの。ネットに詳しいと思ってはいたがまさかコスプレに手を出すなんてねえ、奥さん。え?ああ、私はオサムちゃんに命令されたからこれ着てるだけだからね、結果的にコスプレだけど決して趣味じゃないからね、趣味でやってんの財前だけだからね誤解だから………………あれちょっと待ってくれ。ざいぜん、って………さ、

「ざっざざざざざ財前んんんん!!!!」

え、まって、どうして財前が私の上にいる!?ユーのホームは私の腹の上じゃないのよ!?

後ずさる勢いで叫んでしまったが残念なことに背中にソファー、上に財前という信じがたい状態なので逃走は不可。
転がるという選択肢もあったんだけどいとも簡単に受け止められてしまったのだ。「そおい!」とか変な掛け声をして転がってしまって恥ずかしい。

「ど、どいてくれない?」
「おかしいなぁ、プレゼントが動くわけあらへんのに」
「は…?」
「喋ったりもせぇへんな」

プレゼントが動いたのか?机を見るも、プレゼントではなく金ちゃんの答案用紙しか置いていなかった。なぜ置き去りにされているのかは金ちゃんのみぞ知る。
喋るプレゼントも…なんかおぞましいね。

動くプレゼント喋るプレゼントなんてどこにもないじゃないか、と思っていれば、すっと顎を掴まれて、強引に前を向かせられる。にやりと口角を上げた財前と向き合う形となった私は恥ずかしくて目を逸らした。

そして気付く。首にリボンが結わかれていることを。

「な、なにこれ…!」
「先輩たちもたまには気が利くっちゅーことやな」
「だからさっきから意味わからんっつの!」

な、なんでリボン?ますます意味がわからない。
リボンから逃れるためにもぞもぞ動くが見た目によらず頑丈に巻かれているようで、衣装が変な捩れ方をするだけだった。まずい。これはまずい。私のハム(注:太もも)をこれ以上さらしてはいけないんだ。財前の目が腐る。というか自分で見るにたえない!

スカート丈を戻そうと腕を伸ばす。が、唇に何かやわらかいものが接触するほうが一歩早かった。

「んっ……!?」
「直さんで。なまえの所有権は俺にあんねん。プレゼントはプレゼントらしく俺に好き勝手やられてればええやろ」
「!?」
「プレゼントありがとう、なまえサンタさん?」

耳元で甘ったるく言う財前に、かあっと顔に熱が集中するのがわかる。そのままぴしりと固まってしまい、再度キスを落としてきた財前に精一杯の抵抗として頭突きを食らわすことしかできなかった。顎にクリーンヒットした財前はぷるぷるとうずくまっていた。

ざ、ざまあみろ!そんなんで落ちない女の子はいないんだから…!

ちなみに、私がうたた寝をしているときに部長やレギュラーがこっそりリボン巻きやがったらしいよ。私を部室に仕向けたオサムちゃんもグルだったわけだ。


後日。

「首あいてて寒くないん?」
「大丈夫」
「いや、マフラー貸したるわ。首出し」
「そしたら光が寒くなるよ。私は大丈夫だから」
「だめや。なまえが風邪引いたりしたら会えなくなる。せやから巻いとき?」
「う、あ、ありがとう…」

最高の彼氏ができたので、今となってはみんなに感謝しています。
 

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