「白石くんごめん」
「え、何が?」
「ごめん…」
「ど、どないしたん?」
「失敗しちゃった…」

数日前、ずっと想いを寄せていたなまえに告白をした。驚くことになまえも密かに俺に好意を寄せていてくれていたみたいで、俺たちは晴れて恋人同士になれたのだ。

幸せの絶頂にいる最中、浮かない顔で可愛く包装された箱を渡されなんとなく予想はつく。大方バレンタインのチョコレートを作ったが失敗しちゃったパターンだろう。可愛い奴や。

けれど俺は、例え歪な形だろうと不味かろうとそんなのは関係ないと思っている。なまえが俺のために一生懸命作ってくれただけで十分嬉しかった。

落ち込んでいるなまえの頭を撫でてやる。こちらの顔色を窺うように視線だけ向けた状態、つまり上目遣いになまえを抱き締めたくなったがチョコレートが先だ。早まるな自分!

「ちゃんと調べて作ったんだけど、うまくできなくて…」
「落ち込むことあらへんて。なまえが作ってくれたっちゅーだけで嬉しくてアカンわ。開けてもええ?」

まだ物言いたげな顔をしていたが、こくんと頷くなまえを見て丁寧に包装を解いた。

「これ…」
「形は上手くできたんだけど味とか変になっちゃって…で、でも女として手作りのチョコをあげたいって意地があってね?その…無理して食べない方がいいかと…」
「いやいやめっちゃ美味そうやん!ほな、いただきます」

ぱくり。

一口大のチョコレートを口へ運んで味わいながら食べる。噛むほど味が出てくると言うけれど、甘みはもちろん愛情の詰まったチョコレートだっていうのがよくわかった。

みるみるうちに数は減っていき、ものの数分で全て食べきってしまった。

「ごちそーさん」
「む、無理してないよね…?大丈夫…?」
「ちょお苦かったけど、俺好みの味やったで」
「分量間違ったのかな…。でも、食べてくれて…ありがとう」
「ん」

なまえは安心したのか、ようやく笑顔を見せてくれた。それに釣られて俺の頬もだらしなく弛む。
きっとその笑顔でお願いでもされたら絶対断れないんやろなあと弱味を握られた気分だ。悪い感じはしない。むしろ嬉しい。そんななまえの姿がもくもくと脳内映像となって流れる。妄想とちゃうで、近い未来現実となって現れることやねんからな!はーこれ鼻血出るわアカン。

「あとこれ、白石くんが前に見たいって言ってた映画借りてきたんだ。あのチョコだけじゃ納得出来なかったから…」
「おお、春のソナタやん!グッジョブやなまえ。ほな俺ん家で見よか」

春のソナタは、ヒロインが不慮の事故で記憶を失ってしまうのだが、彼女のことが好きな主人公が奇跡を起こすという感動のストーリーだと人気を博している映画だ。

時代物やコメディー映画も好きだが、たまにふとこのような恋愛物も見たくなってしまうのだ。なまえはもともと恋愛系が大好きらしいのでちょうどよかった。
自宅になまえを呼ぶことは何回か経験はあったけれど、いつも学校帰りやなんかで2時間もしたらなまえの家の門限が過ぎてしまうほどぎりぎりで。
しかし今日は時間は余るほどある。自宅に着くまで、映画を見終わったらなまえの門限時間まで何をしようか、と無駄のないプランを練ったりいけない想像が頭を過って邪念を振り払うのが大変だった。

「お、お邪魔します!」
「…いつも思うんやけど、そんなカチコチにならんでもええんとちゃう?」
「ご、ごめんね。白石くん家だって思うと緊張しちゃって。あ、悪い意味ではないからね!」
「わかっとる。まあ徐々に慣れてけばええよ」

緊張の抜けないなまえは動作が固いまま丸テーブルの横に正座した。その様子がなんだか可愛くて吹き出してしまったのだが、聞こえていたらしく軽く怒られてしまった。赤面して怒られても逆に…なぁ?なんか小動物っぽくてめっちゃ可愛がりたい。

それから茶菓子を用意して、借りてきたDVDを再生。

途中でヒロインが記憶を失ってしまうシーンに差し掛かったとき、隣からずびずびと鼻を啜る音が聞こえた。意外と涙もろい一面にどきりとする。けど、まだ泣くの早いと思うんやけど。

一々登場人物に共感したり反応したり、喜怒哀楽を示すなまえが気になってしょうがなかった。正直なまえを観察しているほうが楽しくて、映画の内容はあまり頭に入ってこなかった。くう、頭撫でまわしたいわもう!

ストーリーも佳境に入りいよいよラストシーン。記憶は失ってしまったが、約束通りヒロインと桜を見に来た主人公。わかりきっていたことだけれど、桜を見に来たことによって奇跡が起こりヒロインの記憶が元に戻った。喜びを分かち合った二人は最後にキスを交わす。
それに合わせて、俺もなまえの唇に触れるだけのキスをした。

瞠目するなまえに微笑む。

「え……え!!」
「春になったらお花見行こか」
「えと…う、うん!喜んで!」

この幸せがずっと続くように、なまえとの未来に思いを馳せるのだった。


いつまでも一緒に
(桜綺麗だね)
(なまえも綺麗やで)
(…恥ずかしいことをさらっと言える蔵くんに私、驚きです)


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