::財前とコスプレ

 
誰にだって知られたくない趣味の1つや2つは持っていると思う。
私の場合はアニメ系統のヲタクというもの。学校では隠れヲタクを貫き通しているが、家に帰れば部屋は好きなアニメやゲームのポスターで壁を見せる隙間を与えていなかったり、机には細部まで表現されたフィギュアで埋め尽くされていたり、さらには美少女キャラの等身大抱き枕を毎晩抱いて就寝する、というのが私の正体だ。

最近ではコスプレにも手を出し始め、ヲタクだとボロを出さないように交友関係にはますます細心の注意を払うようにしている。なので、休み時間などは図書室で読書をするのが日課になっていたのだが、つい先日、私の背丈では届かない位置にある本を図書委員の男の子が取ってくれたことがきっかけで、その男の子と付き合うことになったのだ。

名前は財前光と言って、近寄りがたいオーラを出している男の子。だけど話してみると面白い冗談なんかもいってくれたりして、とても優しい人だった。そんな彼に私もどんどん惹かれていった。

もちろん彼にも私の趣味は秘密にしている。光くんはアニメとか嫌いそうだし、スポーツ関係に力を注いでいるようだったから、ヲタクとバレたら冷めた目で見られるに違いないと思ったんだ。

付き合い始めてから数ヶ月が経ち、光くんといるときにも余裕が出てきた。人生初めての彼氏というものだったから最初は緊張でガチガチだったのだ。

そんなある日、地元近くでコスプレイベントが開催されると聞いて、私は一人で参加することにした。友達にレイヤーさんがいるわけないし、急すぎたのでネットで募集をかけるのも気が引けたからだ。

当日はさっさと用意して早めに家を出た。キャリーバックとは便利なもので、衣装やウィッグを収納すればがらがらと音はうるさいけれど持ち運びが楽になる。最早私の相棒と言っていいくらいだ。

音楽プレーヤーから流れるアニソンを聞きながらイベント会場に到着したとき、今一番会いたくない人とばったり鉢合わせしてしまったのが運の尽きだったと思う。

目を擦っても、風景は変わらない。

最悪だ…私もう学校行けない…!

「…なまえ…?」
「ひ、光くん…、なんでここにいるの…?」

両耳にピアスをつけたつんつん頭はやはり光くんで。

彼は珍しく視線を泳がしてあたふたしているようだった。そういう私もなんて誤魔化そうか必死に頭を回転させているのだが。

「あー、イベント、みたいな…」
「そうなんだ…」

違和感を覚えたのは光くんが引いているキャリーバック。そして聞き間違いでなければ彼はイベントと言った。この会場でイベントと言ったら、1つしかない。

「………」

もしかして、もしかしなくても。

「光くん…コスプレとか、したりする…?」
「…誰にも言わんといて」
「ほ、本当なの!?私も、私もコスプレするんだ!」
「は!?え、ほんま?」
「ほんまほんま!今日もその為にイベント来た感じだし!」
「まじでか…!ジャンルとか聞いてもええ?」
「いろいろやるけど、今日はミク。初出しなんだ」
「うわ、俺KAITOなんやけど」
「う、うそ…!!」
「嘘言ってどないすねん。なまえは合わせで参加?」
「ううん、一人だよ」
「奇遇やな。俺も。そんなわけでカイミクやりませんか」
「わ、私でよければ喜んで!!」「ちゅーかお前俺の彼女なんやからもっと自信持てや」
「だってまだ信じられないんだもん…!光くんがコスプレするなんて!」
「まあ、学校では隠れヲタク貫いてるし」
「同じく」
「なんや俺ら似た者同士っちゅーわけか」
「そうだね!」

あははと顔を見合わせて笑う。聞けば光くんは作曲もするらしく、かの有名な動画サイトにミクやらKAITOやらの動画をあげてるんだって。それなら早くヲタクだってことカミングアウトしておけばよかった!

「ほんまびびったわ。なまえにキモいと一蹴りされて俺終わったなと思った」
「私の方こそ!光くんアニメとかまったく興味なさそうだったし」
「よお言われる」
「ふふ、やっぱり」
「ほなら着替えたら連絡するわ」
「はーい!」

あらかじめ買っていたチケットを見せて入場し、更衣室で一旦別れた。狭いスペースだったが着替え終わってメイクをし、携帯で連絡を取り合って合流。いろいろなアニメやゲームのコスプレイヤーさんで溢れかえっていたから、目立つはずの青髪は見つけにくかった。

「本物だ!本物のKAITO兄さん!」
「ちょ、ネギまで持ってきたんか」
「これ発泡スチロール」
「完成度高い」
「よく見るとボロボロなんだ」

力作だったのに爪で引っ掻いちゃってぼこぼこになってしまった発泡スチロール製ネギ。次回は改良型ネギを作ろうと思う。

「ミク、ピンで撮ろか」
「こんなポーズで大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。かわいいかわいい」
「う…い、一番いいショットを頼む」
「任しとき。ミクのためなら例え火の中水の中スカートの中」
「…きゃー?ていうか歌詞抜けてる」
「えへ」

彼氏と言えども写真を撮られるのは慣れないもので、緊張で顔がひきつってないか心配になった。それから光くんKAITOも存分に撮らせてもらい、流れ的にツーショットへ移行。

「持っててよかったカメラスタンド」
「光くん準備いいね」
「レイヤーなるもの当然や」
「持ってない私涙目」

スタンドをセットし終えた光くんとカメラの前に立ちポーズを決める。雰囲気写真もいいのが撮れたがカイミクという名目で絡み写真もたくさん撮られた。楽しかったけど、男の子と密着したことなんてなかったから刺激的だった。知られざるKAITO兄さん…いや、光くんだったなあ。

「せや、次宅コスせえへん?」
「いいよ!何やる?」
「ノマカプやったら何でも。ここじゃあんま絡めんしなぁ」

周りのレイヤーさんをわざとらしく見回す光くん。無駄に爽やかな笑顔だった。

「反応に困ります」
「照れろや」
「残念でした」
「ちっ。宅コスん時鳴かしてやるからな」
「漢字変換反抗期!」

冗談に聞こえない冗談を言う光くんだけど、これから楽しいヲタク生活が送れそうなので、水に流してあげようと思います。


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