::財前とギター練習

 
音楽室でギターを抱え譜面とにらめっこすること30分。まだ楽譜の1ページも弾けていない現実に嫌気が差してきた。

昔から楽器を弾くことが好きだった私は特にドラムに力を入れていて、高等部にしかない軽音楽部に入ったらドラム担当になってやる!と胸を弾ませて入部したのに、軽音楽部はまさかの廃部寸前の部員不足、ドラムは間に合っていると言われ強制的にギター担当となってしまったのだ。

まさか!長年趣味として叩いてきたドラムだ、私の腕に敵う奴は早々いないはず。むかむかする心を沈め、今いるメンバーの演奏を見学させてもらった。

それが余裕で私より上手かったのだ。リズムも安定していて強弱もついていて、文句のつけようがなかったのである。

「(くそう…)」

ギターなんて昔ちょろっと触ったくらいの初心者で、コードなんてちんぷんかんぷんなのだ。これならば入部しなければよかったと頭の中に後悔の嵐が吹き荒れる。

はあ、とため息をつけばがちゃりと音楽室のドアが開く。先輩たちがやってきた。文武両道を掲げる我が校は運動部と文化部両方に入らなければならないのだが、この先輩二人は軽音楽部の他にテニス部を掛け持ちしているらしい。

「練習はかどっとるかー」
「むりです。わかりません。これなんて読むんですか」

半ば投げやりに楽譜を財前先輩に向け、“Cmaj7”と記されているところに指を差す。

「何て読むと思う?」
「えー読めないです」
「読め」
「ええー…しーまいなーえーじぇーセブンス?」
「ざーんねーん」
「だー!もうわけわからんです!」

ギターを抱えたまま机に突っ伏す。無理だ。私にはちまちまコードを覚えていくよりがむしゃらにドラムを叩く方が性に合っているんだ!
位置につきスティックを器用に指で回しながらドラムを叩き始めた忍足先輩を恨めしく思った。

「上手く出来んくても平気やて、俺がフォローしたる」
「じゃあ全部フォローお願いします」
「自分は遠慮と努力っちゅー言葉を知らんのか」
「…頑張りマス」
「ちなみにさっきの答えはシーメジャーセブンや、これで一つ学習したな」

覚えられる気がしません、先輩。

「コードってなんで3度ずつ重ねるんですか。私の指長くないんですよ、近い内つる自信があります」
「3度構成のコードは明快なコードの響きを作るんや。性格がはっきりするとも言われてんねんけど、3度がなかったらかなり曖昧な音になんねんで」
「ふむふむ、1つでも音が欠けると軽い音楽に聞こえますよね。でもつります。弦押さえるのも痛いです」
「誰もが通る道や」

財前先輩の指を見せてもらうと、反対の指と同じとは思えないほど指の腹が固くなっていて皮も剥けていた。痛そう。だけどこれが練習の賜物なんだろうなあ…先輩ギター上手いし。

「じゃあお願いがあるんですけど…」
「ん」
「ここからここまでゆっくり弾いてくれませんか」

私が指定した範囲は先程まで頭を悩ませてくれた1ページ目のギターパート。

一つ返事で了解してくれた先輩は自分のギターを出す…のではなく、何故か私が抱えているギターを弾く体制に入った。要するに私を挟んでギターを弾こうとしているのだ。

「ちょ、先輩、ギター貸すんで前!前で手本みせてください!」
「こうやったほうが目線も同じやし覚えやすいやろ?」
「あ、なるほどそうですね、って違う…!」

ひいいい、先輩が背中に密着してる…!恥ずかしいんですけどこれ何て言う羞恥プレイ!?集中したくても先輩がなんかしら喋る度に耳に息がかかるから集中できたもんじゃない。しかもコード押さえる時もわざわざ私の指の上から押さえるし…!異性とこんなに接近したことがない私はもちろん免疫なんてもんは付いてなくて、顔から火が噴くどころか顔面蒼白になってしまった。

ゆっくり教えてくれた先輩には悪いが、半分も覚えられずにその日の部活が終わってしまったのだった。



次の日。

「昨日の分できるようなったか?」
「ま、まあまあです」
「出来ないんやろ。安心しい、俺優しいから今日も教えたるわ」

にっこり。

その笑みを見て確信した。先輩はわざとあの体制でやっているのだと。

サアッと血の気が引けていくのを感じ取り、その日から財前先輩を避けるようになったのは言うまでもない。同時に、私のギター奮闘生活が幕を開けるのだった。

「一刻も早く仕上げてやる…!」



「熱心やなあなまえちゃん」
「俺の教え方が完璧なんすわ」
「ああ、あれな…なまえちゃん相当嫌がってんねんで…」
「そこがいい。謙也さんにはわからんでしょうけど」
「おん、わかりたないわ」

忍足先輩そう思うならギターとドラム交換しましょうすぐしましょう!


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