::奮闘するブラウン
ヒュプノスの塔やらに来たおれ様たちは迷路のような道をひたすら進んでいた。ここじゃあ敵は出てくるしペルソナの力を借りて戦ってるし別世界に来たみたいだよなァ。正義のヒーロー参上ォ!なんちて。
時々小部屋に通じる扉がある。さっき入ったらたまきちゃんがただしと向き合うかたちで倒れていた。まさか雪の女王にやられたのかと思って怒りがふつふつと込み上がったところまではおれ様かっこよかったな。うんうん。
ただしが幸せそうないびきを披露して、緊迫した空気は流れていった。もーただしとたまきちゃん密着よ密着。たまきちゃんにふられた気がしておれ様ショックだったわ〜。夏美先生も倒れてたから観察してたんだが、あの三人寝てるらしいな。寝言でただしといちゃついてたたまきちゃんに大打撃を受けたゼ〜。
だけどよ、人の死はヒュプノスがもたらす最後の眠りだって南条から聞いたときはさすがのおれ様でも血の気が引いたぜ。
んでまあ、たまきちゃんたちを起こすために塔の中を探索しているわけだがまーた誰かが倒れてる小部屋にたどり着いたわけ。今度は女の子1人だけかァ。
藤堂が率先して話しかけに行ってるけどどーせ起きねーんだろ。話しかけるだけムダムダ。可愛い子だったらおれ様でも話しかけちゃうけどー。
しかしここからの眺めは絶景である。見えるか見えないかのスカートの長さが絶妙。目の保養だぜ〜でひゃひゃひゃひゃ。
まァ顔を拝んでやらんこともないからな。寝顔をはいけ〜ん!
「…あり?なまえちゃん?」
「ハァ…今頃気付いたのかい」
「いや!だってゆきのさん!誰だって絶景を目の当たりにしたら事実に気付かないことだってあります!」
「うわ〜…上杉引くわー…」
「男のロマンだゼ?だよなっ南条!」
「呆れてものも言えん」
南条だってどこかで思ってるくせにぃ。そんなツンツンしてないでおれ様みたく素直で正直者になればいいのによ。南条にはぷりちーさが足りねぇな!
つかおれ様具体的に言ってねぇのにあれだけで理解しちゃう南条のほうが汚れてると思うんだけど。
なまえちゃんの寝顔は幸せ一杯っつー顔だった。そーゆー仕掛けで眠らされてんだろうけど。可愛いな〜可愛いな〜。
おれ様の顔はだらしなく緩んでいたと思う。
「ん……ふ、ふ…ジャック……だめ、だ…てば………」
「………」
ジャックって誰だ。
おいおいなまえちゃんは夢のなかで何してんだ?おれ様のライフは一気にゼロだ。これ以上失恋したくないっつーかァ…。
ムカムカ。ムカムカすんぜえー!
せっかく幸せオーラが伝染してきたのによォ、空気読めよジャック!くそおおお!!オメーはなまえちゃんのなんなんだー!!
カッチーンときていたおれ様はなまえちゃんの頬をつねろうと腕を伸ばした。
ガシッ
「へ?」
「ブ…ラウン…だあ…へへ〜……」
「なっ!なななな?!」
「うわあ、なまえって超能力者?」
あわわわわあわわわわブラウンておれ様のこと??おれ様しかいないよな?!
おれ様にも春到来?寝言だからすごい舌足らずなのが可愛いぜ!
ジャックに向けていたイライラがなまえちゃんの一言で沸点が下がっていく。おれ様単純〜。なまえちゃんにブラウンなんて呼ばれたことなかったから、複雑でもあるけどドキドキしちゃう。
今にもよだれが垂れそうななまえちゃんの顔を見ているとこっちまで力が抜けそうだ。
夢におれ様がでてんだな〜しかも腕まで掴んじゃって…そうか、おれ様が恋しいんだな。ウン。ん?つーことはだ。なまえちゃんは夢のなかでおれ様と会ってる=幸せってなるわけじゃん?
ふむふむ。
「おれ様脈あり!?」
「馬鹿言ってないで先行くよ。時間が惜しい」
「ま、待ってくださいよゆきのさ〜ん!」
名残惜しいがなまえちゃんの手を優しくほどいてゆきのさんたちを追いかけた。
待ってろよなまえちゃん!すぐに起こしてやるからなァ!
夢の中じゃなく現実で、リアルで、おれ様とスウィートでピュアな日々を過ごそうゼ!
「ここですわね。面妖なDoor がありますわ」
「敵が出てくるかもわからないから、ドジ踏むんじゃないよ」
「準備はいいな?」
この先になまえちゃんがいる。直感でわかるおれ様ってばなまえちゃんと一心同体だったりして!
まーさっきも似たような扉潜ってたまきちゃんたち起こしてきたからなんとなーくわかるんだけどな。
万が一のことを考えておれ様の武器である槍を構える。藤堂の奴が全員に目配せをして、扉を開いた。
目映い光に包まれて目が眩む。視界が開けてきたころにはなんか野生の匂いっつか…軽く動物園のような匂いが鼻をついて、アレ?と思った。
ここ…家ン中か?
「よしよーし!おいでももちゃん!あ、クッキーも膝乗る?おいでおいで!」
「あれは…みょうじか?」
「そうみたいですわね」
「みんないい子だね!ジャックもお座りしてえらい!おやつあげるからねー」
「い、犬…?」
「犬だねえ」
「猫もいるよ〜」
ちょっと待て。
なまえちゃんの夢の中にはおれ様がいたんじゃないのか?!人間どころか犬や猫と幸せそうにじゃれてるなまえちゃんしかいないけど!!!
わー顔舐められてる。なんかイイ。
なんだ、もしかしなくても…なまえちゃんが言ってたブラウンっつーのは…。
「ちょ、君大型犬なんだから飛び付かない!こらブラウン!」
「犬かよぉ…」
はあああああぁ…。ため息もつきたくなるわ。おれ様って犬以下なの?!チクショー。ジャックに対抗心燃やしてたのが馬鹿みてーじゃん!
「ぷっ…ふふふふ…!茶色の毛並みだからブラウンなんだねぇ…!あはははは!!」
「アヤセ。後で覚えとけよォ!」
たくさんの動物に囲まれて幸せそうななまえちゃん。
それを見てたら起こしてやるのも気が引けたりもしたが、おれ様を勘違いさせた罰として、すぐさま起こしてやる!おれ様の純情な心を弄んだ罪は重いぜェ!!
哀れみの視線を受けながらなまえちゃんの元へ行き、問答無用で頬をつねった。
「ひょっ!だれでふかあなた!!」
「起きたらおれ様のこと、よォく思い出すんだな!」
「なんなんれすか!まだおやつ………あれ?」
そしてなまえちゃんは光とともに消えた。動物たちも消えて、なまえちゃんの世界にはおれ様たちしかいなくなった。なまえちゃんのいたカーペットに手を添えてみると温もりが伝わってきて、なまえちゃんの存在を証明しているようだった。
夢なのに不思議だよなァ。
なまえちゃんが倒れていた部屋に戻ると、ぼーっと座っているなまえちゃんを発見!そういえば寝起きは低血圧とか言ってたっけな。
おれ様たちの足音に気付いてなまえちゃんはこっちを向く。一歩遅れて理解したのか慌てて立ち上がるのを見たら夢の中のことはどーでもよくなってきちまった。
「み、みなさんお揃いで!」
「ねーねーなまえ。どんな夢見てたの?」
「それはね、ふふふふ…えっと、思い出せないけど幸せな夢だったと思う」
なんかおれ様、なまえちゃんのこの笑顔には敵わねえ気がすんのよ。場を癒してくれる笑顔。ほーらあの南条まで仏頂面を崩してやがる。気に食わねェなー。
「なまえちゃーんその幸せおれ様にもわけてちょーだいよ」
「上杉くん…あれ?なんか上杉くんさっきぶりって感じがするかも」
「ン?おれ様との愛の逃避行、思い出してくれたかにゃ?」
「うーん…そういうのじゃなくて、もっと身近なので、すごくふわふわしてて温かかった気がするんだ…」
え。
「ブラウン違いってとこかねぇ…」
「負けるな上杉。まだチャンスはある」
嬉しかねーぞそんな気休め!
もーおれ様超本気モードになるから!
その前に凍っちまった学校をなんとかしねェと本領発揮できないわけだが。
それまでおれ様の勇姿を見て待ってろなまえちゃん!