「おい丸井、赤也」

部室で着替えていると既に着替え終わっている仁王先輩に声をかけられた。ちょっと今話しかけられるのは辛いと言うかなんというか。遅刻が多い俺は幸村部長より早く着替えて早くランニングを終えねば通常のメニューの何倍もの量を部長から課されるのを知っている、つか経験済みだ。

横からニコニコと半端ないプレッシャーを送ってくる幸村部長、それを知ってか知らずかニヤニヤ笑っている仁王先輩に心底殴りたくなった。

しかーし今日の俺は気分がいい、何故なら昼休みに平山と目があったからだ!中学生のときから平山に片思いを続けていた俺はラッキーなことにずっと同じクラスだけど、話したことは数えられるくらいしかない。だからなのかしんねーけど、目があったときはすんげー嬉しくて心臓が飛び出るかと思った。
相変わらずの無表情だったけどそこがまたいいんだよ、クールでさー。んでもたまにハイテンションで会話してるときもあって、なんつーかそのギャップも…可愛い…んだ!

言っとくけどストーカーじゃないからな。

丸井先輩は大好物のグリーンアップル味のガムを膨らましながら「なんだよ」とダルそうに返事をし、俺は着替えながら仁王先輩の話に耳を傾けた。

「見つけたんじゃ」
「何をだよ」
「はむ太郎」
「「え!?」」

驚愕の事実に目を見開いて仁王先輩を凝視してしまった。丸井先輩も瞳を爛々と輝かせて仁王先輩の話に食いついた。

仁王先輩は表情を崩さないまま俺らの反応を楽しんでるみたいだけど…そもそも本当なのか?

「誰だった!?」
「さあの、俺の知らない奴だったからのー」
「なんだよ勿体ぶってないで言えよー!」
「断定はできんが、強いて言うなら赤也が一番近いな。そいつと」
「…え、俺スか?」
「確かに高2っつってたけどよー……あ!はむ太郎もここに通ってんだろ!」
「まじすか!」
「さあ、どうじゃろな」

仁王先輩に言われてドキリとした。俺に一番近い。どういう意味だ、もしはむ太郎が立海に通ってるんだとすれば俺と同学年だし今一番近い存在だろ、ここに通ってなければえーと丸井先輩と近所っぽいから丸井先輩と近い存在になるから…んー…?やっぱ立海に通ってるんだよな?…あーややこしい!結局はむ太郎は立海に通ってんの通ってねえのー!?どっちだちくしょー!頭がこんがらがる!つか俺には平山がー!!

「赤也がショート寸前だぜぃ」
「赤也には難しすぎたかのう」
「ふふ、髪の毛もこんがらがってるよ。あ、いつものことか」
「ゆ、幸村くん……」

とりあえずはむ太郎に聞いてみりゃいいのか!それが一番手っ取り早いな、うん。
そうと決まれば早く今日のメニュー終わらして家に帰らねぇと。

「………あ」
「赤也、一歩遅かったね?君の悩める姿に楽しませてもらったけど遅刻した罰として、外周100周ね」

着替え終わってコートに行こうとすれば入口に天使の微笑みを携えた(いやいやここでは俺もビックリな悪魔だ)幸村部長が仁王立ちしていて。

後ろで丸井先輩と仁王先輩が笑いをこらえているのを視界の隅でとらえて殴りたくなる衝動を抑え、ラケットを握る手をぷるぷると震えさせながら俺は校門を飛び出した。

仁王先輩が勿体ぶるから着替えに手間取ったとか俺が平山を語りすぎたとか幸村部長のプレッシャーに体が思うように動かなかったとか色んな原因が頭をぐるぐると駆け巡ったけどやっぱ一番の原因はあいつだ、幸村部長は恐くて心の中でも愚痴れねぇんだっはむ太郎のバカヤロー!!!


―――


「ぶぇっくし!!」
「ちょ、こっち向けないでよ汚い!」
「すまん。鼻水が」
「ティッシュなら教卓にあるからね」
「ありがぶぇっくしょん!」
「親父!」

放課後は友人に連れ去られ家庭科室でクッキーを作る友人を眺めていた。
出来上がったクッキーを可愛い袋に詰める作業を見てうんと背伸びをした矢先にくしゃみ。変な体制でくしゃみをしたからあばら骨が痛くなった。そしてティッシュを取りに立ち上がれば二度目のくしゃみ。は、はなみずが激流デス………。

「強烈なくしゃみだったね、誰かに噂されてんじゃない?」
「噂されるようなことは断じてしてないよ」
「じゃあ風邪引いた?」
「うーん…それもないと思うんだよね」

なんとかは風邪を引かないって言うし。自分で肯定しちゃってるところが日本人お得意の自虐ネタだよね、と言ってみたり。

鼻をかみおわったところで友人は綺麗にラッピングされた包みを渡してくれた。ひゃほーいクッキーだー!

「ありがとう!」
「いえいえー私のクッキーを喜んで食べてくれるのあんただけだからね」

みんな勿体無いことしてるなあ、そこらへんで売ってるクッキーなんかより美味しいのに。つかこれ菓子職人になれるよ絶対!私が保証する!なんて言ったら「私のは趣味程度だから」と苦笑されてしまった。もったいない。

友人に存分に感謝して帰る支度をした。友人はこの後用事があるから先に帰っていいと言われたが、私は見てしまったのだ。

ささっと自分の後ろに私にくれたものと同じ包みを隠したのを!

「ふっふっふ…それ、誰にあげるの?」
「なっだ、誰だっていいでしょ!」
「照れない照れない、ほら、おねーさんに言ってみな?」

な?な?としつこい私に折れて、友人は恥ずかしそうに俯きごにょごにょと口を開いた。

「ま…丸井先輩」
「あ、お昼の人かあ!ファイト!」
「うん」

本音を言うと丸井先輩というのが銀髪の方か赤髪の方かよくわからなかった私は友人を勇気づけてから下校したのだった。すまん友人よ…!
 


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