昨日いや今日の夜中まで狩りに付き合わされた私はいつも以上に目の下にくまを作ってほぼ気力で学校に来ていた。授業中は寝ていたけど、友人は「またネトゲか」的な視線を向けつつそっとしておいてくれるから助かる。先生は何度注意しても直らない私に呆れて何も言うことはなくなった。

そしてお昼休み。私はこの時間になると眠気も吹っ飛ばして力の源のご飯を頂くのだ。

「購買行ってくる!」
「起きたな結衣!メロンパン!」
「高くつくぜぇ」
「英語のノート見せてやるから」
「えー」
「私の手作りクッキー」
「よしきた!任せとけ、うおっ!」

友人と毎度のごとく交渉してから勢いよく教室を出ると背が高い人とぶつかりそうになって大きく飛び退いてしまった。
その人は珍しい銀の髪色で瞬時に不良!と答えが出た私は人の目も気にせず脇を通って逃げるように購買へ向かうことにした。

「さーせんっした!」

謝罪の言葉も忘れずに。


購買へつくと生徒で溢れかえっていて、たまに何も買えないまま売り切れてしまうことがある。そんな時は購買のおばちゃんが校外へ出られない私におごってくれたりとかするんだけど、今日は友人のメロンパンも買わなければいけないので戦利品0という失態は許されない。料理部に所属する友人の作るクッキーはプロが作ったように美味しいのでぜひともゲットしなければならないのだ!

「すんませーん失礼しまーす」

人と人の間を器用に通り抜けておばちゃんの元へと辿り着く。フッこれは毎日購買戦争に参戦しているからこそ身に付いた技であるぞ。

パンが入ってるバスケットの前を陣取りメロンパンともちもちパンとチョココロネと、あとは焼きそばパンに手を伸ばした。

「おばちゃん!この4つ!」

「はいー毎度ね結衣ちゃん」

お金を払って購買戦争を後にすれば「あー!焼きそばパンが売り切れてるー!」という叫び声が耳に入った。すまんな、男子生徒、最後の焼きそばパンは私がもらったぜ。

勝ち誇った笑みを携えて私は教室へ戻ったのだった。


「メロンパンお待ちい」
「さんきゅー結衣、今日の部活でクッキー作るからおいでよ」
「まじすか!でもなどうしようかな」
「お前少しはネトゲじゃなくて友人を優先しなさいよ」
「さーせん」

友人にごもっともなことを言われて、今日は料理部にお邪魔することにした。

袋から焼きそばパンを取り出してぱくりと一口噛みつく。うまい。焼きそばパンを産み出してくれた偉大な職人に私は拍手を贈りたい。
もぐもぐと焼きそばパンを味わっていると、友人はある一点を見つめて硬直、みるみると顔も赤くなっている。
様子がおかしい、でもクラスの女子も友人と同じ症状に陥っている気がする。一体どうしたというんだ。

なんだか興味がわいてきて私はみんなが見つめている方向へ首を動かしてみた。

「………なんだ」

みんなの視線の先には同じクラスで色んな意味で人気者の切原がいた。なんだなんだ切原かよ。切原なんて嫌でも毎日顔合わせてるじゃないか、今更なんだってんだ。そう思って焼きそばパンをもう一口かじると、切原の隣にさっきぶつかりそうになってしまった不良もいることに気づいてしまった、更には赤い髪の不良も増えている。さーせん、みんなが恍惚の表情をして見つめる意味がわかりません。

友人に向き直って目の前で手を振ってやるとハッと我に返ったようで、普段気性を荒くしない友人が鼻息荒く力説してきた。

「結衣!ま、丸井先輩だよ!?あの丸井先輩だよ!?天才的妙技の丸井先輩だよ!?」
「や、意味わかんない」
「綱渡りの丸井先輩だよ知らないの!?」
「す、すんません」
「このクラスに来るの珍しいなあ、切原に用事があったのかな?うわあ丸井先輩かっこいいな〜」
「そ、そうデスカ」

友人、暴走。

「結衣はかっこいいとか思わないの?」
「ん?私の恋人パソコンと妖夢だから」
「うっわネトゲ廃人の名言きたよ」
「妖夢は渡さんからな」
「いや妖夢知らないし!」

友人がそう言い切った否やクラスに黄色い声が僅かに沸き上がった。だからどうしたってんだ!

「まっままま丸井先輩と仲間たちがこっち向いてるううう!どうしよう結衣私一生目薬させない!」
「花粉症だったら死ぬな」
「そんくらい楽勝よ!」
「ね、とりあえずパン食べたいから肩ぶんぶん振らないでください」

なんか汚いものがリバースしてきそうなんだけど。興奮が冷めない友人よいつもの落ち着きを取り戻してくれえええというか丸井先輩とかいう人帰ってくれえええと念を送り続けたが、昼休みが終わるまで友人はおろかクラスの女子の興奮が冷めることはなかった。




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