「そういや財前の弁当って結衣ちゃんが作ってるんやろ?」 がん! 切原が物凄い音をたてて塀にぶつかった。す、すごく痛そうなんだけど…!大丈夫だろうか…。 「そうっすけど。何でそないなこと聞くんすか?」 「財前ー俺は結衣ちゃんに聞いてんやけど」 「結衣が答えるまでもないっすわ」 「俺と結衣ちゃんはポケモン交換する仲なんやで!せやから結衣ちゃんに答える権利はあんねん!」 「はあ〜〜〜謙也さんめんど」 おでこを擦っている切原を腹を抱えて丸井先輩が爆笑していた。 血が滲んでいたら大変だしハンカチ持っていってあげようかなと鞄を漁る。しかし目的は達成せずに肩を掴まれ、されるがままぜんざいと忍足さんの間に入れられてしまった。 うん、ハテナ状態だ。 「謙也さんの相手してやってや」 「はあ?」 「なーなー財前の弁当って結衣ちゃんが作っとるんやろ?」 「ああはい、自分の弁当作るついでに」 「くう…破廉恥や…切原もそう思わん?」 「なんでやねん」 ごん! 思わず突っ込めば前方不注意な切原が電柱にぶつかった。このタイミングでぶつかるってある意味神がかってる…! 丸井先輩が笑い転げそうなんだけどそんな笑わないであげて切原かわいそうになってきた。 「ど、どないしたん切原…」 「何でもないっすから。どうもないっすから」 「まじうけんだけど赤也!お前ほんとわかりやすいよな!」 「先輩に言われたくないっす!」 「まあ大丈夫ならええけど。話ずれてもうた」 そんな他愛のない話をしながら全員で家路についていたのだ。みんな目立ちすぎなんだよね、好奇の眼差しが痛すぎる。 なるべく壁際に沿って歩いていればひょこっと金ちゃんさんが現れた。あらかわいい。 「ねーちゃん!ワイ決めたんや、ゲテモノ料理食ったるでぇ!」 「ゲテモノ料理?」 「忍足さん。聞かなかったことにしといてください。んで金ちゃんさん、それには深い訳があってね、」 「金ちゃん、覚悟は出来とるんやろな」 「お、おお!」 「遮るなぜんざい貴様!」 「ちなみにな、ゲテモノ料理以外にもサバイバル料理があってな」 そんなもんありません、そう言おうと身を乗り出せばぜんざいに腕を回され口を塞がれてしまった。 私は金ちゃんさんの誤解を解きたいだけなのに凄まじい力で押さえつけられているからふがふがと声を出すしか出来ない。金ちゃんさんこんなの信じないでー!そんな料理マニアックな店じゃないと作らないから!くっそー接着剤で貼り付けたみたいに剥がれないなこの腕…! 「さ、サバイバル…?」 「名前の通り無人島或いは山奥で遭難した場合に役立つ食い物や」 「聞きたないけど…予習や予習!どんな食い物か言ってみい財前!」 「ほんまに言ってええの?」 「どんとこいやあ!」 「…口に出すのもおぞましいんやけど」 「…ご、ごくり」 「野生のカマキリと蛾を押し潰して、丸めて、口んな「〜〜!グロいわ違うわ!」 グロいものほど想像するスピードが早いんだよ。想像したくなくても好奇心が心の片隅にあるだけで勝手に映像が構成されてしまうのだよ。そんなグロいもの見たくない!我慢、我慢…! ご飯中の方、もしくは食後の方は本当にすみません。ぜんざいにはあとできついお灸を据えますから! 「吐き気する…!そんなん人間が食べれるわけないじゃん!」 「テレビで食っとったから言った」 「ええええ」 「他にもあるで、砂漠で遭難したときはラクダを殺して胃を裂いて消化されてない塊を取り出して絞って水分を補「気持ち悪いだめそんなの公共の場で言うことじゃなーい!!」うっさ」 「やめろよ!ご飯中に思い出したらどうしてくれるんだ!第一砂漠なんて行かないから!」 「もしもの時のためにや」 「お前は何になりたいんです?」 「特には」 「なのに無駄知識多いんだなお前は」 「蛾…かまきり…ま、丸めて…」 「ひい金ちゃんさん復唱しないでー!?」 本格的に危険だ、金ちゃんさんは危ない橋を渡っている最中と見た。どうにかして意識をこちらに戻してやりたい、んだけど…わ、私まで気持ち悪くなってきた…。 魂がどこかへ飛んでいってしまった金ちゃんさんはただぼそぼそおぞましい言葉を繰り返しているだけだった。 「おおおお忍足さん助けて!」 「…結衣ちゃん家って、野性的なんやな」 「畜生お前もか!」 泣きそうだよ私! 「…ねーちゃん。やっぱワイ無理や…虫さんは食えへん」 「うわああああんおかえり金ちゃんさあああん!もう虫のことは忘れよう。希望のある明日を見つめよう!」 「え?でも食わんとねーちゃんの弁当食われへんのやろ…?」 「ちゃうねん!あの話はぜんざいの作り話なの!」 やっっと言えたわこんにゃろ! 「あーあつまらん」 ポカーンとした表情になった金ちゃんさんは暫くすると私の言ったことを理解してくれたのか、「財前コラー!また騙しよったなー!?」とぜんざいを追いかけていた。 はあ…一安心だよ。 「遠山って詐欺にひっかかりそうっすね。あんなバレバレな嘘に引っ掛かるなんて」 「お、俺かて最初から嘘だと思っとったで!」 「…忍足さん、ほんとかなあ…」 立海と四天宝寺は今日も平和ですよ。 |