「よっしゃーお昼だー!」

丸井先輩がコンビニの袋を下げて部室に飛び込んできた。それに続き仁王先輩やら忍足さんやらコンビニ組が帰ってきたわけだが、丸井先輩の袋にお菓子しか入ってないように見えるのは気のせいかい?

「丸井先輩…それだから切原にぶた先輩なんて呼ばれるんですね…」
「ブッ」
「…幸村、ご飯粒が飛んできたのだが」

精市が悪魔の微笑みで真田先輩を縮こまらせているのは見なかったことにして。

「太りますよ」
「うっせ!お菓子は俺のエネルギー源なの!」

お菓子を漁り出した丸井先輩はそれはもう子供のように顔を輝かせて選んでおりました。
金ちゃんさんも丸井先輩と打ち解けたのかお菓子分けてもらってるよ、かわいいねえ。

私も鞄からお弁当箱を二つ出して、大きめの方をぜんざいに渡した。

「いただきます」
「どーぞどーぞ」

久しぶりにお弁当を作るものだからちょっとだけ気合い入れて作ってみたんだ。わくわく。
ぜんざいは蓋を開けてまじまじと全体を見てから箸を取りだし巻き玉子を口に運んだ。この間奴は無表情。ご、ごくり。

「自分食わへんの?」
「あ、そうだね、食べる」
「まあ味はまずまずやな。食えんこともあらへんから安心しーや」
「む。喜ぶべきなのか怒るべきか…」

そう言いながらも箸を進めるぜんざいを見て、不味くないならいいかなと自分も弁当に手を付けた。

「ねーちゃんのお弁当うまそうやんなー!一口くれへん?」
「き、金ちゃんさん…!」

これと交換してやー!とポッキー二本をちらつかせる金ちゃんさんのかわいらしさにノックアウト寸前。昨日はかっこいいとか思っちゃったけど話してみると小動物系だ、かわいい…!

「好きなの食べていいよ!」
「ホンマ!?おおきにねーちゃん!」
「ぬおっ」

唐揚げを一口で平らげた金ちゃんさんは私の口にポッキーを押し込んで、次の標的を探していた。
うん、イチゴムースのポッキー美味い…!

「一口ちょーだい」
「んー?」

顔に影がかかったと思えば、真正面にぜんざいがドアップで。

へ?何が起こっているんだいジョニー。

長かったポッキーは半分の長さになってしまい、折られたもう半分は…。

「あま」
「………ぜんざい?」
「ごちそーさん」

ニヤリと口元を歪めたぜんざいを見て、顔に熱が集中するのがわかった。

すぐさま周りを見回して誰もこっちを見ていないか確認。OKです隊長!全員自分の弁当に夢中でこちらに気づいていません!

ほっとしてぜんざいに向き直り、小さく怒声をあげた。

「ぽ、ポッキー返せよこらー!」
「真っ赤な顔して言われてもなあ」
「ううううるっせー!」

ゆ、許すまじぜんざい…!純情な乙女をからかって遊ぶなんてそれでも男か!紳士の風上にも置けない奴だ!少しは柳生先輩を見習えこらー!

「明日からのお弁当…楽しみにしといてね…」

味噌汁でもぶちこんでやろうかな。汁まみれで食べる気も起きないからねあれ。

「財前の弁当もねーちゃんが作ってるん?」
「あ、金ちゃん」
「ズルいわー!なあ、ワイにも作ってきてくれへん?ねーちゃんの弁当食いたいねんー!」

ずっきゅん。

金ちゃんさんパワーで回復、嬉しいこといってくれるなあ金ちゃんさん…!ぜんざいも命拾いしたな。
よし、金ちゃんさんのためならお弁当の一つや二つ増えたところで変わらんのだ、毎日作ってあげ「だめや」あん?

「なんでやねん!財前のケチ!」
「この弁当はな、試練に打ち勝ったモンだけが食べれる弁当なんや」
「試練?」
「せや、こいつん家の料理を食べきれたもんだけがこの弁当にありつけられるっちゅーしきたりがあんねん」
「ワイ大食いなら自信あるでー!」
「しかもその料理ってのはな、ゲテモノ料理やねん。蛙やったり蛇やったり幼虫や」
「うげ…」
「金ちゃんはこれら出されて食べれる自信あるん?」
「虫さんは…ちょっとなあ…せ、せやけど、さっきねーちゃんの弁当食べれたで!」
「ああ、勝手に食いよるとあとで災いが降りかかるらしいで」
「なっど、どないしよー!ワイ死ぬかもしれへんの!?ちょ、ちょお銀拝んでくるわ!」

待て、しくった?これ私しくったの?まさかそんな馬鹿げた話に引っ掛かるお馬鹿さんはいないと思って口出ししないでいたのに状況は深刻な方向へまっしぐら。金ちゃんさんはまんまとぜんざいの嘘八百に騙されて弁当食ってる石田さんの横に鎮座して必死に手を合わせていたのだ。

「おま…後輩に何デタラメ吹き込んでんの…?」
「金ちゃんからかうのおもろいねん」
「あれ信じてるよ?石田さんに必死にお願いしてるよ?石田さん何者なの!?」
「結衣、おかわり」
「もう食べたの!?つか話を逸らすなってちょっとこらこれは私の弁当だ」

私の弁当に箸を伸ばす手を思いっきり叩いてやればむすっとして腕を引っ込めた…と思ったらデザートとして入れていたグレープフルーツをぱくりと食べられてしまったのである。
わ、わたしの大好物が…!

「ぜんざいのあほんだら!」
「ええやんか、俺の弁当より多く入ってたんやし」
「ば、バレてーら」
「不平等や。今日の晩御飯ハンバーグな」
「そう来たか。でも今日はグラタンっつってたよ」
「チッ」
「舌打ち!?」

「…お取り込み中悪いんやけど、金ちゃんがさっきからあの様子で師範がめっちゃ困ってん。何があったか知らん?」

小石川さんが金ちゃんを指差しながら本気で心配してる顔をして聞いてきたので、当然ぜんざいを指差したのだが。

「それならこいt「知りません」あん?」
「ちょっとだけでもええねん、知ってることがあれb「知りません」
「…ほんm「知りません」…そ、そか、わかったわ」
「………」

ぜんざいは悪戯が成功したとでも言うように薄ら笑いを浮かべていた。
その顔は見なかったことにして。

もし金ちゃんさんが我が家の食卓を勘違いしたままだったらどうしてくれるんだ。

はあ、と吐いたため息は空気に溶け込んでしまっていた。

 


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