その後家族三人に一人プラスされた夕食を和気あいあいととってぜんざいを部屋へと案内した。夕飯中に娘の扱いがひどくなる場面も多々あったが私のひろ〜〜〜い心に免じて水に流してやろうと思う。覚えてろよハゲ。 「ぜんざいの部屋はここね」 「自分の部屋は?」 「隣。パソコンしたくなったら来なよ、勝手につけていいから」 「勝手に入ってええの?」 「別にいいけど…あ、やっぱりだめ今服とか散らばってるわ」 「うわ、汚な」 「おいコラ言ったそばから開けんな」 お世辞にも綺麗に整頓されてるとは言い難い部屋にぜんざいはずかずかと踏み込み、投げ捨ててあった漫画本を手に取りぱらぱらとめくり出した。かと思えば高級椅子に腰を下ろし真剣に読み始めてしまったのだ。 「…それ、全巻持っていこうか?」 「…ん」 「かわいいよね、よつば」 「んー」 「…これは尊敬すべき集中力なのだろうか…」 それとも疲れてるのかな?漫画に夢中になってしまったぜんざいには何を言っても聞き流されてしまうことが判明したので、その漫画全巻をぜんざいの部屋に置いてきてやった。 パソコンっつかネトゲしないんならこの部屋にいる意味ないし、自分の部屋にじっくりいられるのも嫌な感じだからそれ読み終わったら出ていってもらおう。明日も早いんだから私も睡眠をとりたい……。 ベッドに座った私の頭がこくりと傾いた。 「ねむ…」 そういえば明日はお母さんたち早出とか言ってたっけ…、夏休み中は購買もお休みだしお昼ご飯どうすっかな。コンビニでもいいけどぜんざいがいるからなあ…毎日コンビニだと金銭的にも危うくなるし、よし、ここはいっちょ一肌脱ぐか。 「ぜんざいー好きな食べ物ある?」 「白玉ぜんざい」 「え、だからぜんざいはぜんざいなの?」 「おん」 「ニックネームは可愛い理由からなんだね…!でも白玉ぜんざいは無理だ」 「話が見えへんのやけど」 「明日からのお昼。よければお弁当作って行こうかなーと」 ふっふっふ、長年お母様の手伝いで鍛え上げられた私の腕前に驚くなよー。 そう言ったところで料理の出来栄えはびっくりするくらい普通なんだけどね。こんくらいみんな出来ちゃうレベルなんだけどね。 「弁当いる?それともコンビニで済ませちゃう?」 「結衣は?」 「私は弁当作っていくけど」 「じゃあ俺のもついでに頼むわ」 「う、うん」 読み終わったのか漫画を閉じたぜんざいは他の気になっていたらしい漫画とネトゲ専門誌を漁って持っていってしまった。その姿は心なしかとても機嫌が良いように見えた。 …何がびっくりかって、ぜんざいの口から私の名前が出たことさ。覚えてたんだ。不覚にもときめいたり…してないからな、ちょっと不意打ち食らっただけだから…! ぜんざいの部屋のドアが閉まる音を聞くまで、私はあんぐり口を開けたままだった。 それからこの日はお風呂入って早々ベッドにダイブしたのでネトゲには顔を出さずに1日が終わった。 ピピピピ ピピピピ 「ん〜…」 携帯のアラームが朝を告げる。ちなみに言っておくが、これはよく聞く電子音ではなく小鳥のさえずりだ。これを朝一に聞けばどんな最悪な気分でも、例え台風が直撃していようともすがすがしい朝を迎えることができるのだ。 もぞもぞと起き上がり寝ぼけ眼のまま洗面所へ向かっていると明かりがついているのが目に入る。お父さん電気消し忘れたのかなあとあまり気に留めず洗面所に入れば、上半身真っ裸のお兄さんがいた。 一気に眠気が吹っ飛んだ。 「ああああ朝から変なもん見せんじゃねー!」 「変なもんて…別に見られてもおかしない所やと思うねんけど」 「私は野郎の真っ裸が嫌いなんだよ」 「プールんときはどうすんねん」 「男子側は強制シャットアウトだよね」 うええ…思い出しただけでも身震いがする。嫌すぎて中学んときは仮病使って見学してたっけ。 あれなのよ、高校だと女子と男子が50mプールを半々で使うから天国はここにあったのよ、女の子のスク水まじ天使。後ろから胸触っちゃったりして可愛い反応を楽しんで男子に羨望の視線を向けられたっけな。むふふ。 「顔きも」 「失礼、楽園に旅立っていたよ」 プールといえば夏休みの宿題にプールで100m以上泳げって実技があった気がするけど…めんどいサボろ。うん決定。 朝風呂から上がってやっとジャージを着たぜんざいと入れ替わるようにして私は洗顔を手に取った。 ツンツンヘアーも水で濡れて落ち着いていたから、最初誰だかわかんなかったのが事実。髪の毛だけで別人みたく変わるもんなんだね。 「髪乾かさないの?」 「ほっとけば乾く」 「んー、じゃあなんか適当にご飯食べててよ」 「おん。…結衣」 「な、なに」 「おはよ」 その悩殺笑顔は反則だと思います。 水も滴るいい男とは、こういう奴を指すんだなとしみじみ思いました。 しかしこのやり取り、なんかむずむずして恥ずかしいぞ…! |