幸村宅のインターホンを鳴らせばドタバタと落ち着きのない物音が聞こえ、ガチャリと開かれたドアから出てきたのは精市だった。

「やあ、遅かったじゃないか丸井」
「…うん、なんかゴメン。遠山いる?」
「白石と格闘技で遊んでたから俺も交ぜてもらったんだ、そしたら二人とも伸びちゃって」
「「「………」」」

どんな技を使ったんですか。恐ろしくて言葉も出ないよ。
精市の背後を盗み見してみるとぐったり倒れている頭と足が見えたんだけど、これが金ちゃんさんと白石さんではないことを祈るばかりだ。

「自分、ようこんなんと幼馴染みやってこれたな」
「慣れと意地があれば楽勝っすよ」
「おっと何か聞こえたぞお」
「ぜ、ぜんざいシールド!」
「はむ太郎いっぺん死んでこい、話はそれからや」
「裏切り者ー!」

ぜんざいの背中に引っ付いたのにぺりっと剥がされ魔王の真ん前に出されてしまった。

いっぺん死んでこいってぜんざいお前なー!ゲームの世界ではゲームオーバーになってもセーブしたところからまた始められるけど三次元はセーブポイントないんだからな!?ぽっくり逝ったら終わりだかんな!?
うわああ精市さん手を構えないでくださいそれ頭グリグリですよねわかりますすごく痛いんですよそれ頭割れちゃうくらい痛いんですよこの馬鹿力めー!つか丸井先輩なんでちゃっかり家の陰に隠れて親指立ててんすか!グッドラックってか!?助けろおおおおおお。

しょうがない…ここは最終手段を使うしかないのか…!

「逃げるが勝ちじゃー!」

ダダダダと脱兎の如く砂埃を巻き上げて全力疾走することで逃走成功、あ、ぜんざい忘れた。
再度戻ってぜんざいの腕を掴んで全力疾走。だがしかし隣だから走ったことにあまり意味がないと気づいたのは玄関をくぐってからだったのだ。

「ただいまー」
「お邪魔しまーす」

靴を脱ぎ荷物を置く。ぜんざいにもそうするように促しているとリビングからお母さんが顔を出し、すぐさま引っ込めた。

「パパ、パパ!結衣もやっとよ!彼氏連れてきたわ!」
「何だとー!?」
「何か勘違いをしていらっしゃるお母様方ー!!」

ぎょっとしてリビングへダッシュするよりも先にお父さんがダッシュして玄関にやって来た。ちょ、お父さん髪の毛薄れてきたんだから走ったらぱふぱふしちゃうでしょうが!ほらぜんざいも頭の方に視線向けてるから!お父さん禿げてんのバレちゃうから!

ていうかお母さんに夏休みテニス部の手伝いするから云々話した気がするんだけど…あれ、忘れ去られちゃった?

「言ったよね?テニス部でうちん家に一人居候が来るって」
「お母さん、精市くんだとばかり思ってたわ〜」
「何故お隣さんがわざわざうちに泊まりに来るんだよ」
「…結衣、精市くんじゃないじゃないか」
「だからそう言ってんじゃねえか!なんで精市しか頭にないかな二人とも!」

もうやだこの両親。ボケるのも大概にしてほしいんだけどなんでこの二人から私が生まれてきたのか謎でしょうがないよ。

「初めまして、財前光いいます。結衣さんとはいいお付き合いをさせていただいて「誤謬があるかな訂正していただいてもよろしくて?」…2週間お世話になります」
「誤解解けよ!?」
「話は聞いてるわ、財前くん…いえ、光くんて呼んだ方がいいかしら?結衣の部屋の隣が空いてるから、自由に使ってね」
「ありがとうございます、お義母さん」
「うわあノリノリだよこいつら」

最早私は何も言うまい。いちいち訂正するのに疲れたのもあるが、早くも人生に疲れちまったよ。
助けて私の癒し千歳さん。

「財前くんとやら」

ああそうだまだいたわハゲ親父完璧忘れてたわ。

「俺は認めてないからな、娘はやらんぞ。そこのところを勘違いしないようにしなさい」
「はい。あ、お義父さん、髪型かっこええですね」
「よし光くん今日は一杯どうだね?」
「喜んで」
「ふふふ、光くんはまだ未成年よパパ」

こ、こいつ…親父の褒めポイントを一瞬で見破りやがった…!
お父さんもお父さんだよ、まんまと社交辞令に引っ掛かってんじゃねえよハゲー!しかも実の娘である私を差し置いて夕食か、いくら心の広い私でもグレるぞ。
あ、今の放送事故じゃないからねそこんとこあしからず!



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