※ オンラインイベント リリ夢展示作品



終業式直前のざわつく教室で男子の誰かが発した。

「夏休みさ、みんなで海行かね?」

それぞれで喋ってたはずが静寂、次の瞬間一斉に湧き立った。様子を見に来た隣のクラスの担任と廊下の窓越しに目が合って、言われずとも分かったから立ち上がり息を吸い込む。

「はいはーい、そろそろ先生来るから席ついてー」

そう言うとみんな座ってくれるからこのクラスは素直でとても良いクラスだと思う。声量を落として隣の人たちとヒソヒソ、これくらいなら大丈夫かな。
わたしも座り直すと横からひっそりと話しかけられた。さっきまで前の席の男子と話してた山田くんがこっちを向いてる。

「委員長も行かね?」

そっちへ向くと、目も眉も口元も顔全部が楽しみですってなってる。輝く瞳にもちろん断る選択肢はなく。

「うん。行きたい」

あ、水着買わないと。友達の背中をうしろからつついた。

「ね、今度水着見に行こ」
「今年も可愛いのいっぱいだよ!見てこれー!」

差し出されたスマホの画面には今年のトレンドがずらり。ほんとだ全部かわいい。
翌日、気持ちがはやりすぎて早速出掛けた。みんな思い思いの柄を取って体に当ててみてまた戻して、可愛いとか似合うとかこっちはどうとか、わたしも一緒に存分にはしゃいでる。
そろそろ自分のも決めないと、さっきよりは真面目に一着一着見ていく。形も柄も可愛くて迷うけどすごく楽しい、どれにしよう。
隣の棚に移動して手にした一着目。綺麗な真っ青、完全に釘付け。
一目惚れした気がする。

「ね、ねぇ。これ、どうかな」
「わあ!いいよそれ!すごく似合う!」

一緒に買ったのは白のラッシュガードと白いメッシュキャップ。
早く当日にならないかな、楽しみすぎる。



委員長は真面目でいいやつ。真面目だからいいんちょーっぽいし、実際委員長だし。そんでテスト前になると俺らの勉強を見てくれたりする、というか誰かしらが泣きついて結局俺ら全員見てもらってる。
騒ぐ俺らと真逆なのが委員長。全然うるさくなくて頭が良くてテストも毎回すげえ点数取るし、センセーに怒られるとこなんて見たことない。
あと、その…カワイイ、と、俺は思う。その、色々と。
でもなー、真逆すぎてあんま話せねえ…ウザがられてないかとか考えたり、そもそも接点がなさすぎる。
今日だってしゃべったのは一回。

「お!いいんちょおはよー」
「あ、山田くん。おはよう」

たった一回!だけど!笑ってくれた!超カワイイ!
ポーカーフェイス、のつもりだった。けど席座って前のやつが振り向いた顔が完全にニヤついてる。

「んだよ」
「委員長と話せた?やったじゃん」
「うっせ!」

バレてた。つーか声もっとちっさくしろよ!
聞こえてないか不安になって恐る恐る隣へ顔を向けると委員長もコッチを向いて、ヒヤッとしたのとあとドキッとした。

「どうしたの?」
「ナンモ、ナイデス」

うわー!今日二回もしゃべった!超うれしー!
口が勝手にニヤけたのが分かったから机に突っ伏す、委員長に気持ち悪い顔は見せたくない。

「よかったな二郎ちゃん」

椅子を軽く蹴ってやった。
でも、この席サイコー。



そんで更にサイコーな機会が巡ってきた今日。快晴、雨予報なし、完璧に海な日。
終業式ん時の俺がんばった、えらい、声が震えそうになるの必死に耐えた俺を俺はほめる。
なんてことを考えながら女子の着替えを待ってる間、まわりのやつらもなんだかソワソワ、俺もだいぶソワソワ。だって好きな子の水着姿、きんちょーするし。彼女持ちのやつは一緒に水着買いに行ったとか内緒にされてるとか、そっか、付き合ったらそういう風にもするんだな。委員長はどっちだろ、俺も一緒に選ばしてくれっかな、いやでも当日までのお楽しみも捨てがたい。
悩んでるところを隣のやつに小突かれヒソヒソ声。

「来たぞ」

視線が勝手に向かった先は更衣室の出口。ぞろぞろ出てきた女子たちの中。
うわ、めっちゃカワイイ。
え、つーか、青。え、青?
キレイな青があんま日焼けしてない委員長の肌と、映えるってのはこういうことを言うんだと思う。
すっげー似合ってる。
うわ、うわうわ。
ボーッと見てたら隣からまた小突かれた。

「二郎ちゃ〜ん見すぎだぞー」
「…うっせーよ」

近付いてくるとそれぞれ仲の良いところへ散らばる女子。委員長は数人の女子と喋ってて、笑った顔がかわいくて、うわー超好き。
何人かの手に背中を押されたのは突然、だから目の前に委員長がいたのも突然。ぶつからないように踏ん張って、驚いた委員長と目が合って、体が固まった。
やばい、近い、超好き、カワイイ。
テンパる俺の頭はまわるけどぐるぐるするだけ。どうすればいい!?そうだ女はほめる!?だっけ!?

「あああの!委員長!すっげー似合ってる!」

合ってた目が大きく開かれる。びっくりしてる顔もかわいい。
でも次はなにを言えばいい。混乱は続いてて口を閉めたり開けたり。してると、うしろから野次が飛んできた。

「二人とも色おそろいじゃん!いーね〜」

委員長の水着は青。俺も、前から使ってるやつ持ってきただけだけど青。青と青。おそろい。
委員長の肩がビクッとして、小さな両手が小さな口元を隠す。

「わ、あの、なんかごめん!」
「いやえっと、全然…その、かわいい」


委員長顔真っ赤。
うっわ、カワイイ。つーか俺も顔があつい、心臓が早すぎてうるせえ。
なんて喋っていいか分からないままふと気が付くと、まわりはすでに移動し始めるやつらがちらほら。

「その、えっと。とりあえず、行くか」
「…うん」

歩き出せば自然と隣り合って、気付かれないように目だけ向ける。
うつむき気味の委員長は小さな耳がまだ真っ赤、白くてキレイな首筋に青い肩紐、それが支えてる先は青の中に白くて…ふわふわで…
うわどうしよ。
超カワイイ。そんで、超えろい。


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