※ 10,000hitリクエスト:山田家末っ子



兄さんたちはみんな大きい。兄さんたちはみんなやさしい。

兄さんたちに合わせて作られたキッチンはわたしには高くって、洗い物を手伝うのに台が必要になる。でもこうやって台に乗っても、隣に立つ三郎兄さんにも全然追いつけない、話しかける時は首を上に向けなきゃいけない。

「三郎兄さん、今日の晩ごはんはなにを作るの?」
「うーんそうだなー」

今朝のお皿洗い当番は三郎兄さんとわたし。みんなの食器をふたりであわあわにしていきながらおしゃべり。
食器を洗い終えたら兄さんに手を拭いてもらって、降りたわたしは台をキッチンの隅に片付ける。…この前片付け忘れちゃったら二郎兄さんが足をぶつけちゃって、それからいつもの流れで三郎兄さんと喧嘩が始まっちゃった。急いで真ん中に入ってごめんなさいしたら、ふたりとも黙っちゃって…怒られるって思ったけど撫でてもらっただけで終わった。ふたりが喧嘩するのはイヤだから、もう絶対忘れないぞ。
それが終わったら置いてたカバンを取って玄関に走る。靴を履いてる三郎兄さんの隣に座ってわたしも靴を履く、兄さんはわたしが終わるのを待ってから立ち上がって。

「ほら名前、行くよ」

いつものように手を差し出してくれる。元気よく返事をして手を繋いで、それからふたり揃っていってきますをする。
三郎兄さんは少し遠回りになっちゃうのに毎日送ってくれる、わたしに合わせてゆっくり。楽しいおしゃべりも門のところでお別れで、今日も大きく手をふる。

「名前、いってらっしゃい」
「いってきまーす!」

背を向けた三郎兄さんはあっという間に見えなくなる、背が高いと歩くのもやっぱり早いんだ。



二郎兄さんはたくさんゲームとマンガを教えてくれる。

「名前ー!新刊買ってきたぞー!」

玄関から聞こえてきたおっきな声に向かって走り出した。おかえりなさいと一緒に抱きつくと、簡単に抱っこされる。高くてこわいけど、兄さんは落とさないって知ってるからそのまま一緒にリビングへ。

「読むか?」
「読むー!」

渡された袋を両手で抱えると、ソファーに降ろされた。早く読みたいわたしは兄さんを待てなくて、手洗いから戻ってくる前に袋を開ける。ビニールを破るのに四苦八苦してると戻ってきた兄さんの手が持っていく、あっという間に取ってくれた。お礼を言ってから読み始めると、兄さんも隣に座って別のマンガを読み始める。お互い読み終わったら交換してまた読み始める。
それが終わったら今度はゲーム。ゲームをしてるといつの間にかわたしがテレビに近付きすぎるからって、二郎兄さんの膝の間が定位置になった。今日はふたりで協力プレイするゲーム、ダンジョンの仕掛けを避けたり解除したり、順調に進んでいた。はずだった。

「…二郎兄さん、ここどうやるの?」
「え!?お、おう…うーん」

右往左往したり、キーアイテムが落ちてないか探してみたり…でも進めない。頭上からの唸り声も大きくなってきた。

「兄さん…」
「ちょ、ちょっと待ってろ!すぐ分かるから!」

兄さんがコントローラーを握り直した時、三郎兄さんがリビングに入ってきた。あ!こういう時は三郎兄さんに聞くといつも教えてくれる!コントローラー片手に走り寄ると、抱き上げてくれて目線が同じになる。

「名前、どうかした?」
「あのね、あれがね」

テレビを指差すと、頭の良い三郎兄さんはすぐ分かったみたい。
わたしを降ろして二郎兄さんと反対側に座ってくれた。コントローラーを渡すと言葉少なに二郎兄さんに指示を出していき、あんなに唸ってたダンジョンをあっという間に攻略してしまった。さすが三郎兄さん!

「ふん、低能だとこんなのもクリアできないのか?」
「ぁあ!?んだと!?」

ああっ始まってしまう…!
両隣の兄さんの袖を掴む。

「に、兄さん!ありがとう!」

少しの沈黙のあと、ふたりの浮きかけてた腰はまた戻って、わたしの頭を二郎兄さんがぐしゃぐしゃって撫でてくれたあと、三郎兄さんが整えてくれながら優しく撫でてくれる。いつものようにおさめられたとホッとした。
…まあ結局、このあと続行されたゲームで喧嘩が始まっちゃったけど。



毎週日曜日は、一郎兄さんと早起きして一緒にごはんを作って一緒に食べて、ジュースを準備してからテレビの前のソファー。一郎兄さんの膝に乗って座りやすい位置が定まると、後ろから大きな手が出てきておなかを支えてくれる。あったかい。
それからかっこいい戦隊だったりライダーだったり、それが終わると今度は魔法少女を一緒に見てくれる。
今日は魔法少女が次の子たちに引き継がれる、今までで一番の敵と戦って、守って、最後にいつもの曲が流れてから。来た!
次の子たちもかわいくって思わず身を乗り出すと、兄さんの手にそっと戻された。それでも興奮はおさまらない。あ!

「兄さん兄さん!」
「ん?」
「黄色い子!兄さんが好きな声の人だよね!」
「おーよく分かったなー!」

頭がゆれるほど撫でてくれた。兄さんと笑いながら、来週からは黄色の子を応援しようって密かに決めた。
録画を見たり兄さんの円盤を見てると三郎兄さんが起きてきて、そのあと二郎兄さんが起きてきた。一郎兄さんと作った朝ごはんをあたため直して兄さんたちに渡すとふたりとも撫でてくれてくすぐったい。
片付けが終わるとみんなで玄関へ。今日は全員でおでかけする日!
一番に玄関を飛び出るけど、二郎兄さんにすぐ捕まって目線があっという間に高くなる。目の前には兄さんのやさしいタレ目。

「名前ー、走ったら危ないだろー」
「はーい!」

首にぎゅって抱きつくとみんなで出発した。



駅前のおっきな通りを進んですぐ。二郎兄さんに抱っこされたまま、たくさん並んでるUFOキャッチャーを通りがけに眺めてた。あ!思わず二郎兄さんの肩をぽんぽん叩く。

「あれ!あれ!」
「ん?どれだー」
「おっきいの!まるいの!」

一番大きな台の中には、今朝見た魔法少女のマスコットキャラ、一番おおきいぬいぐるみ。わたしのそんな声だけで兄さんたちはゲームセンターに入ってくれる。

「これか?よっしゃちょっと待ってろ」

二郎兄さんはわたしを片腕で抱っこしたまま器用にプレイし始める。1回目、ちょっと動いた。2回目、一気に穴の近くへ。3回目。

「兄さんすごい!!」
「へっへー!もっと褒めたっていいんだぞ!」

取り出したおっきなぬいぐるみを渡してくれる。おおきい、ふわふわ。今日はこの子と一緒に寝よう!

「二郎兄さん!ありがとう!」
「おう!」



このあとはみんなで本屋に…の予定だったけど、一郎兄さんと二郎兄さんの好きな小説がフラゲできるってアニメショップに行くことになったから、溜息を吐いて見送った三郎兄さんと一緒にお留守番。手を繋いでやってきたファミレスで、テーブルは広いのに隣に座ってくれる。

「一兄たちには内緒、な?」

メニューの一番うしろを開きながらウインク。
かっこよさに思わず顔を見たまま固まってしまった。三郎兄さんはふたりでいる時だけ、ちょっとお茶目になる、そんな兄さんもかっこいい。

運ばれてきたのはおっきなパフェ。大きくて食べ切れないから我慢しようとしたけど兄さんにすぐバレて、半分こって言ってくれた。だからそのお礼に、てっぺんの赤をあーんて口元に持っていった。

「名前が食べなよ」
「一郎兄さんの色!だからこれは三郎兄さんにあげる」

くちびるに押し付けると、照れたように笑ってから食べてくれた。それからやさしく撫でてくれる。

「名前、ありがと」
「どういたしまして!」

ふたりで半分こして食べきったタイミングで兄さんに連絡が入る。一郎兄さんたちの買い物が終わったみたい、それが聞こえて椅子から降りようとすると兄さんに止められた。

「名前こっち向いて。…とれた、チョコつけたままじゃ、一兄たちにバレるだろ」
「内緒、だね?」
「そ、内緒」

いたずらっぽく笑った兄さんと指切りしてからお店を出た。



荷物がたくさんになった一郎兄さんに抱っこされながら家までの道。会話を聞きながら兄さんたちをぐるっと見回す。一郎兄さんの抱っこは高い。一郎兄さんと同じ目線になると、三郎兄さんの頭のてっぺんも見えるし、二郎兄さんの目がほんのちょっと下になる。でも全然不安定さがなくってあったかくって、すごく安心する。
首元にぎゅって抱きつく。一郎兄さんのだっこが一番高くて一番すき。

玄関でみんなと一緒に靴を脱いでいると、一郎兄さんと二郎兄さんが荷物を置く、すごく重そうな音がした。兄さん、あんな荷物を持ちながらわたしを抱っこしてたんだ、やっぱり一郎兄さんてすごい。
みんなで手洗いうがいをしてからリビングへ。晩ごはんまでまだ時間がある、三郎兄さんに遊んでもらおうかな、それとも二郎兄さんかな。悩んでいると一郎兄さんに呼ばれて振り返る。

「これは名前にプレゼントだ」
「なーにー?」
「開けてみろ」

受け取った大きな袋をテープを剥がして逆さにして取り出すと。今朝見てた魔法少女の、変身パジャマ。CMが流れるたびに欲しいなって思ってたけど、家族みんなのために一生懸命働く兄さんに言えるわけなくて我慢してたやつ。

「兄さん!これ!これって!」
「ずっと欲しそうにしてただろ?」

見てくれてたんだ。
ぐーって、ぶわーって胸のあたりが嬉しくなって、しゃがむ兄さんに抱きついた。

「ねえ!ねえ!今夜これ着て寝ていい!」
「気に入ってくれたかー!いいぞ」

撫でてくれるのも抱きしめてくれるのも嬉しくって。
兄さんのほっぺにありがとうのちゅうをする。

「一郎兄さんありがとう!」
「おう!」

兄さんもちゅうを返してくれた。
そしたらそれを見てた二郎兄さんも加わって、わたしが潰れるって助けてくれようとした三郎兄さんも巻き込まれて。みんなで床に転がっちゃったけど楽しくていっぱい笑った。



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