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▼ ノイローゼ


真っ白。真っ黒。真っ赤。真っ青。瞬きをする度に色を変える世界であいつはいつも遠い向こうでぽつんと椅子に腰掛けている。

気づけばいつだってそこにいる。頭痛がしてノイズが響いて脳裏を影が過ぎってその違和感に思わず目を伏せた。砂嵐。ゆっくりと瞼を上げればあいつは椅子から腰を上げる。

「きみはやさしいね」

まるで紙芝居のように瞬きをする度に距離が近づいて、いつの間にか目の前で微笑むその顔は嬉しそうで、楽しそうで。真っ白な髪と真っ白なワンピースは真っ白な世界の中で真っ白に輝いて眩しいほどに、うつくしい。

「きみはやさしいね」

ふわりと香った匂いが鼻腔を抜けて脳を刺激すれば、また脳裏を過ぎる影に一度瞬いた。微笑みながら首を傾げた彩音の頬を赤い髪が滑り落ちる。その髪に手を伸ばし、耳にかけるとき、ほのかに桃色をした頬をゆるりと掠めた指先が溶けた。

「きみはやさしいね」

胸に当たる重みと背中に回されたぬくもりに目を細めた。黒い髪に指を通して顔を近づけるだけで香る甘い匂いが頭蓋骨を砕き脳を揺らした。ぐらりと視界が大きく回って歪んで、縋るように小さな身体を抱くと腕の中からくすりと笑い声が一つ溢れて消えていく。

「きみはやさしいね」

小さく笑った彩音の青いワンピースの中に手を入れて滑らかな肌に触れればドロリと指が形を無くした。溶けて、固まる。それはさながら蝋燭のようで、蝋が身体だとするならば炎はなんだろうか。意思だろうか。魂だろうか。命だろうか。考えるのも面倒だ。

「やさしいふしみくんにはごほうびをあげる」

耳元に寄せられた唇から漏れた吐息が鼓膜を撫でて脳を溶かす。ぞくりぞくりと背中と膝裏と尾骨に痛みにも似た快感が走って堪えきれずに息を吐いた。このままこの身体をかき抱き欲を吐き出してしまいたい。そうした果てで、俺は。

指先が熱い。どろどろに溶けて固まって、いつしか一つなっていく。気づいた時にはもう遅く、指一本動かすことは叶わない。甘い匂い。甘い声。甘い肌。全てが包んで離さない。世界は真っ白だ。

長い髪も澄んだ瞳も潤った唇も他の誰のものでもない。交わった俺のもので許容した彩音のもので一つになった俺たちのものだった。昔も、今も、そしてこれからも。手放すことも離れていくこともない。このまま一つになってしまえば、それで。

「やさしくころしてあげようね」




目を閉じれば、目が覚める。
そうして何度も何度も同じ夢を見る。



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ごめんの一言が言えずにいる伏見くんの苦悩。


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