晴れ渡った青空は、私たちにいよいよ夏がきたんだだということを思い知らせる。真っ白なカーテンやシーツで埋め尽くされた病室は、光を反射してこちらの気も知らずに眩しく光っていた。 幸村が倒れて、もう何か月がたっただろうか。彼が原因のわからない病気と闘い始めてから、今日で何度目の朝を迎えたのだろうか。私が幸村のお見舞いに来たのは、今日で何度目だろうか。 「ねえ、幸村」 窓の外に広がる青空から目を話さずに呼びかける。彼は、私はいつまでこんなことを続ければいいの。この空は、いつになったらぐしゃぐしゃになってくれるの。 「なんだい」 きっと彼も私の方は見ていない。いつからだろうか、ここにきても話が続かなくなってしまったのは。私たちが顔を見ずに佇む光景は、いつから? 「死んでしまった人の、感情や、想いや、思い出は、どこに行ってしまうんだろうね?」 沈黙を破るようにして、発した言葉は私にもどこから出てきたのか訳がわからなかった。ただ、私の始めた話に戻るのならば、消えてしまう、と一言片付けてしまえばそれで終わるものだ。人は呆気なく死を迎える。今ここにいる私だって、あの窓から飛び降りれば死ねる。こんなにも重んじている生命個体の生を手放す方法は、こんなにも簡単なんだ。いまこの一瞬にも、あっという間に。時間なんて必要ない。そのことが不思議でたまらない。さっきまで確かにあった一個人の感情や思い出は、データにしたらきっとどんな崇高な機械だってスペックオーバーだろうに。 「その人だけが感じた気持ちや、視点、大きくいったその人の歴史はもう紡がれることがないんだ。」 「どうかしたの?えらくセンチメンタルだね」 幸村は相変わらず、私に視点をあわせない。そういう私もあわせていないけれど。私たちの関係はいつからこんなにもちぐはぐになったのだろう。 「それは、その人が亡くなってしまったら、もう終わってしまうのかな」 その先を創ることができないのは終わりになってしまうのだろうか。心に引っ掛かる大きいような小さいような焦りに似た痛みを隠しながらも話し続ける。いまの私にはそのくらいしかできなかった。 「それとも、永遠に変わるのかな」 環境を変えていく時間から解き放たれた人の気持ちは、まさしく永遠なんじゃないかとふと感じてしまった。そこは、私たちのいる世界と違って、変わることのない、不変の世界なのではないだろうか。 「そもそもその考えこそが、なまえのエゴでしかないよ。」 やはりかみ合わない視線によって、小さくともすでに私たちの世界はずれ始めてしまっていたのだなあと、そんなことを漠然と感じる。時間とは、やはり厄介である。 青い青いこの空は、こんなちっぽけな私たちを嘲笑うかのように、さっきから曇りの一点も見せない。相も変わらず真っ白なカーテンやシーツが私たちのちぐはぐさを誇張するかのように輝いていた。 「今日のなまえは、俺を苦しめることしか言わないんだね。」 笑ながらも、どこか寂しそうで苦しそうで、 それが、幸村が今日初めて私を見てしゃべった言葉だった。 |