「病み上がりで、まだ本調子じゃないんだよ。だからキミにサポートしてもらえないかなって。部員にも苦労を掛けたくないしね。」
「・・・それで、私?」
「ああ。キミなら部員たちも了解するだろ?ああいうキンキンした奴らじゃ鬱陶しくてね。」


え、何なの?態度まるで違うじゃん。別人じゃん?


「・・・なにそれ。さっきまで女の子達に向かって、あんなにいい顔してたくせに。」
「何言ってるの?この顔は生まれつきだよ。嫉妬?」
「うっぜえええええええ」
「フフッ」


むかつくけど、とてもむかつくけど、でもちょっとほっとしたような、不思議な気分。てっきりあの状況を楽しんでるのかと思ったけど、この人も、普通の人間なんだ。でも普通の男子だったらさっさとキレたり、そっけなくしたりして女の子達を巻くのにな。それをしないのは、もしかして女の子達を傷つけないため?・・・こいつ、意外といい奴なのかも。


「朝礼始めるぞー。」

担任の山上先生が教室へやってきた。自称山P。でもどこか残念すぎるから、他称は山B。ちょっと暑苦しいけど、まあ、いい先生だ。


「というわけだから、今日の放課後からよろしくね、侑紀。」
「え、ちょ、何それ待ってよ!私まだマネージャー引き受けるなんて一言も・・・!!」
「よろしくね、侑紀。」
「うっぜえええええええ!まじ人の話きけよ!」

前言撤回。何がいい奴よ私バカ!?私だって(これでも)女の子なんだから!!私だけそんな扱いってないでしょ、おかしいでしょ!?なにそれ!!

「うるさいぞ、松山!」
「・・・〜っ!!!!」

山B、違うの。これは罠なの。この隣の幸村とかいうやつが仕掛けた。・・・ん?ちょっと待って、もしマネージャーなんて引き受けちゃったら私、もっと罠にひっかかるんじゃ・・・!そうだよ、周りの視線が!!うわあああ、目立たないように、目を付けられないように過ごしてきたのに!この3年間、私がどれだけ女の子達のうだうだを適当に過ごすために努力してきたことか・・・っ。うそでしょ、なにそれ・・・。

これからの未来予想図に愕然としてうなだれていると、山Bは幸村の紹介を始めた。まあ、知らないのなんて私くらいだろうけど。彼にはもうあの王子様スマイルが戻っていた。ああ、疲れた。もういやだ。何もしたくない。


「というわけだから松山、幸村に教科書見せてやれよ。」
「は?な、何言ってんの山B?」
「今言っただろ、教科書まだ届いてないからお前見せてやれって。」
「はああああああ!?聞いてないし!!」

聞いてなかったのはお前だ、そういって大声で笑う山B。違うってば、今じゃなくてさ、ほら一ヶ月前位からそういうのは予約していただかないと!あーまわり鬱陶しい。こっち見んな。ああ。

『フフフッ、やっぱりおもしろいね、侑紀は。』

いつの間にか机をくっつけてきた幸村が耳元で囁いた。急な出来事でビクっと体がはねる。耳弱いの?なんてくすくす笑いながら囁く幸村。ええ、くすぐったいのは苦手ですよ。もう止めてほしい。本当に泣きたい。なんで私、こんなやつの隣なんだろう。

『あんたのせいで、私の人生台無しよ。』

顔を見ずにそう答えれば、反省したのか知らないけど、幸村はそれから一切話しかけてこなくなった。まあ、授業中は喋らないし、休み時間は女子がきゃいきゃい寄ってくるから私はあいつと喋らなくていい訳だけど。





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