私の隣の席は空いたまま。窓側の席は、主の帰りを待っている。











隣の席、私の知らないキミ
(そいえば、まだ一回も会ったことないんだよねー・・・)











「ねえ、侑紀!今日から幸村君学校来るんだって!」
「へー、幸村って、あの?」

友達の真咲が、教室に入ってくるなり私のもとに目を輝かせながら走ってきた。朝から女の子たちの高い声が、いつもに増して生き生き飛び交っていたから、今日は何の日だっけと気にしてはいたけど、なるほどそんなイベントがあったとは…。これはわかるわけないな。……え、なんでかって?いや、だって私は、幾ら幸村精市くんがこの学校で超がつくほど有名人だったとしても、みんなが憧れる王子様だったとしても、会ったこともなければ話したこともないからだ。ん?自慢じゃないけど。このマンモス校じゃそんなこと珍しいことじゃないのよ。ちなみにそんな幸村くんに継ぐ人気を誇る、サッカー部の大久保くんのことも私は知らない。

「なによー、反応悪いなあ!」
「だって、1回も会ったことないしさ。何より興味ない。」

そう、興味がないのだ。

本当のこというと、そういう男の子の前だけでどっから出してるのか分らないような猫なで声でしゃべる女の子も、好き好き好き好きアプローチしまくってる女の子も、悪いけど苦手だ。ああ、真咲はただ単にミーハーなだけね。別にぶりっ子するわけじゃないもの。だからこそ、自分を可愛く見せようと頑張ってる子の気持ちって本当よく分らない。こういうのって女として駄目なんだろうけど。でもさ、自分を偽ってでもやる価値あるの?ソレ。


そんなことぐだぐだ考えていたら、教室のドアががらりと音を立てて開いた。そして、私は目の前に広がる光景に愕然とする。溢れんばかりの人、人、人!正月のバーゲン会場のような人だかりが、そこに広がっていたからだ。


…何、コレ…?

「「「「「きゃあああああっ!」」」」」

耳を劈くような絶叫は振動となって(もはや声どころか音とも呼べない!)鼓膜を突き刺した。いったーい!もう!うるさい!漫画だったら見開きの太字の効果音だ!バタバタと女の子たちがドアへ向かう。

「幸村くんだあ!」
「おはよー幸村くん!」
「久しぶりーっ」
「さみしかったよう」
「体はもう大丈夫なの?」



「…」


キャイキャイはしゃぐ女の子たち。はいはい、楽しそうですねー。彼は学校に来てからずっとあんな状態なんだろうか。マジ疲れるだろ。みんな声高すぎ。人多すぎて幸村くん見えないし。

「キャー幸村くん!侑紀も行こう!」
「はあ、私も!?ヤダ。行かない。」
「…あっそ。ま、侑紀は隣の席だもんねえー。羨ましいことー。」

そう言うと真咲は嫌味っぽく顔をニヤつかせながらそそくさと渦中へ飛び込んでいった。何だアイツ。段々人波に消えていく背中に向かって、独り言のようにぼそりと呟く。

「そーですよ。というわけでさっさといってらっしゃーい。」

あーやっと静かになった。これで私を幸村くん退院おめでとうハーレムに誘う友達はいなくなったのだ。自由だ。幸せだ。誰が好き好んであんな人ごみ近づくのよ。

「侑紀!」
「だから私は…って、ん?ブン太?」

またミーハーな友達かとうんざりしながら振り返ると、予想を反しそこにいたのは1年からの親友、丸井ブン太だった。


「おー、元気か?」


そう言って片手を挙げると彼はガムを噛みながらニッと笑った。





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