幸村のことは、全部本人から教えてもらった。去年の秋、急に倒れたこと、病名がはっきりしなかったこと、体の自由が奪われ、医者にもうテニスはできないだろうと申告されたこと。


「あの時何が起きたのか、一体どうなったのかはまるでわからなかったよ。もともと体は弱い方ではなかったし、むしろ体力には自信があった。だけれど、次目が覚めた時には、俺はベッドの上に居たんだ。」

「部長代理を真田に任せたまま、大会はどんどん終わっていった。だけど俺は一回も、練習にさえ顔を出すことができなかった。部長なのにね。」

「関東大会の前日、担当医が話しているのをたまたま耳にしたんだ。"もうテニスなんかできないだろう"って。目の前が真っ白になったよ。立海3連覇を果たすのが、俺の中で使命になっていた。そのために、俺は今までやってきたのに、意図も簡単に崩れていったんだ。上手く動かない自分の体を、とても疎ましく思った。あいつらにあわせる顔がなかった。」

「それからの俺は毎日リハビリに励んだんだ。王者立海の3連覇を成し遂げるために。」



話を聴いているとき、幸村の意志の強さがこれでもかってくらい伝わってきた。あいつは、テニス部の優勝だけを願ってた。そのためにたくさんのことを犠牲にして、全てをかけてやってきた。それなのに、神様はあまりに残酷じゃあないか。幸村じゃなくても、よかったのではないか。もっと、私みたいになんの目標をかかげるでもなく、漂々と生きてる人はいっぱいいるのに。

だけど幸村は、そんな苦難を乗り越えて、ここまで這い上がってきた。つらいリハビリにも耐え、驚異の回復力で医者もうならせ、今ここにいる。彼にとってようやくスタート地点に立てたんだ。

知らなかった、幸村がそんなつらい境遇を乗り越えていたなんて。だから、テニス部のみんなはあそこまで、幸村に尽くすんだ。優勝にこだわるんだ。

いままで私がやってきた雑務は、もともと全部部長の仕事だと聞いた。幸村に今、そこまで手を回す時間も、体力もなかったから。だけど、これからは最低限のことならやってあげられる。体調を気にかけたり、テニスに専念させてあげたりすることくらいなら、私にだってできる。

「侑紀、…侑紀、なにぼーっとしてるの?」
「へ?」
「ほら、学園祭の準備だってさ。」
「…あ、終礼終わったの?」
「ああ、さっきね。机後ろに運ばないと。」

隣の幸村に声をかけられ周りを見渡すと、みんなガゴーっと派手に音を立てて机を運んでいた。あれ、私タイムスリップでもしたのかな…?とりあえず急いで席を立って机を運ぶ。前の席の吉田くんが私のことを少し睨んでた気がする。申し訳ない。

そうそう、テストは無事終わって、なんと、幸村のおかげもあって追試はひとつもなし!!よかった本当によかった。これで高校に進学できる。さすがの私でも、追試を残したまま全国大会なんて行けないわ。そして、今日はあっという間に終業式。そしてこれから学園祭の準備、らしい。


「みんなーっ、聞いて!今日の昼に、主役2人の衣装が完成したの!!」

衣装チーフの子が教卓の前に立つと、教室中に聞こえる声で叫んだ。うおおーっと教室中がざわめく。そう、C組がやるのは白雪姫の劇で、なんと、我がクラスの衣装スタッフには仕立て屋さんの娘がいたのです。作成過程からもわかるくらいすごい衣装を作ってて、みんな衣装にはとても期待していたのだ。

「じゃあ、主役のお2人ー、教室へどうぞ!!」

王子様とお姫さま役の2人が照れくさそうに教室へ入ってきた。わあああああ、と湧き上がる歓声。まるでお店で作ったんじゃないかってくらい、綺麗で丁寧な作りに、みんな見惚れるばかり。

「すご…、きれー…!」
「ああ、すごいね。こんなにきれいな衣装を作られたら、ほかのスタッフも、俄然頑張らないといけないな。」
「…うん、私たちも頑張ろっ!!」

私と幸村は、一通り2人の衣装を見終えると急いで自分たちの持ち場へ向かった。さあて、私たちも頑張らないと!モチベーション上がってきたぞー!





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