「…はい、お水。」 「ありがとう。」 幸村の様子はようやく落ち着きを取り戻したみたいだ。水渡せば、幸村はそれを受け取って口に運ぶ。しばしの沈黙。幸村の手、震えてた。あれは一体なんだったんだろうか。どうしようもなく心配で尋ねても、さっきから彼は大丈夫の一点張りだ。でも絶対、大丈夫なんかじゃないよ。普通、あんなにひどい痙攣なんて起こすはずない。入院してたとき患っていた病気と、何か関係があるのだろうか。私ではなく、ミーハーな女の子たちだったら原因を知っていたのだろうか。もっとちゃんとした対処ができたんじゃないか。嫌なことばかりぐるぐる頭を回っていく。 「落ち着いた?」 「ああ。」 私、やっぱり幸村のこと何も知らないんだ。そんな現実を目の前にして、こんなことしかできなくて、こんなことしか言えない自分が情けなくなる。なにがマネージャーだよ。こんなことなら、私なんかよりも幸村のことをもっと知っていて、ちゃんと対処もしてあげられる、…ミーハーだって私が勝手に嫌悪していた女の子たちの方が、よっぽど相応しいじゃんか。 「ねえ、幸村。手、どうしたの。何があったの。」 「大丈夫。侑紀が心配するようなことじゃないから。」 さらっと答えてみせる幸村に、自分でも想像できなかったくらい動揺してしまった。私が心配することじゃない、それは、私に心配をかけたくないってこと?それとも、私には言いたくないってこと?深く関わられたくないってことなの?だめだ、今の私じゃよくない方向にばっか考えが走ってしまう。 「さっきはすまなかったね。この問題はもう理解できた?」 何事もなかったかのように幸村が、さっき解説をしていた問題を確認する。正直、つらい。今はもうだめだ、泣きそう。このまま幸村の前に居たら、私がだめになる。 「うん。もう大体解決できた。ありがとう。大丈夫!」 いつもしかめっ面ばかりの私、今このこびりついたような笑顔を幸村はどう思っているだろうか。でもね、やっぱりもう無理だよ幸村。 「そう?まだあと1つ項目が残っているけど…。」 「あ、うん。そこは大丈夫!ちゃんと授業きいてたから。」 ノートやペンケースをそそくさと鞄にしまう。所詮私なんて、大会まで手助けしてくれる便利な存在にすぎなかったんだ。だから、そんなやつに自分を晒して深く関わりなんて持ちたくなかったんでしょう?なのに私ばっか、こんなに近寄ろうと一生懸命になっててさ、ばっかみたい。 「遅くまで付き合わせてごめんね。さ、帰ろっか。」 今はもう、帰りたい。逃げたいよ、幸村から。ぐっちゃぐちゃな気持ちは私を蝕んで、今じゃとても整理しきれない。 |