私が美人

わたしが、美人?



…びじんって、何




ブン太に言われた言葉の衝撃が強すぎて、午後の授業は素敵に頭をすり抜けていった。何、美人って何?もしかして、美人じゃなくて微人なのかも。ノートの端に書いた『美人』の美を消しゴムで消して、『微人』に修正してみた。うん、私にはこっちのほうがしっくりくる。きっとブン太は言ったのはこっちの『微人』だ。そうそう。しかし、こんな日本語見たことがないって言っちゃだめ?新しい流行語かな…。私疎いもんな。

チャイムが授業の終わりを告げる。うー、やっと自由。あとは終礼をして、それから…。うん、それからがちょーっと問題あり、なんだけども…。

今は少しでも幸村のそばを離れていたい。きっと山Bが来るまであと5分くらいあるから、少しくらい大丈夫だ。さてどうしたものか、と考え事をしながら廊下に出ると、眩しいくらいの青空が目に飛び込んできた。ああ、無情にも今日も空は青い。私の心は嵐の前の静けさだというのに。


「侑紀さん。」
「う、わ!…なんだヒロシか。」


後ろから声をかけられぐるりと振り返ると、そこにいたのは柳生比呂士という名の紳士。とりあえず幸村でないことを確認できただけで今の私には十分なことだった。それにヒロシならむしろ好都合だ。


「ぼーっとして、考え事ですか?」
「うん。まあ、そんな感じ。」


でもヒロシを見たおかげで吹っ飛んだ。今私の頭の中に浮かぶのは授業中の考え事。だってヒロシなら微人の意味を知っているかもしれないし、私のことを美人だとからかうわけでもないだろうから。よし、いける!私が有名人な理由がわかれば、その理由を極力避ければいい話!


「ねえ、ヒロシ。微人って知ってる?」
「美人、ですか?」
「あー、えーっと、びは微妙の微、ね!」
「…さあ、よくわかりませんが…。」

ヒロシでわからないなら、これは強敵じゃないのか。

「微人がどうかしたのですか?」
「あのさ、なんか私、学校中で微人だって有名みたいなんだよ。」

私の言葉を聞きヒロシがぴたっと固まった。なにそのブン太みたいな反応。もうみんなさっきから嫌だ。


「侑紀さん、どこで勘違いされたのか知りませんが、やはりそれは美しい方の美人だと思いますが。」
「だーかーら!なんで私が美人なのよ!いくら紳士と呼ばれててもここでお世辞はいらないからね!ありえないでしょ。もっとよく考える!」


よく見て!と顔を近づければ、ため息に近い返事が返ってきた。ほら、違うでしょ、やっぱり!


「世の中では、あなたみたいな方を美人とお呼びするのですよ。」
「ね!ほらやっぱり!…って、え?」
「私が紳士だろうがそうでなかろうが、私はあなたのことを美人だと思っています。」


う、うわなにそれ!照れる、照れるじゃないか…!

「あ、ありがと…。なんかヒロシに言われると信憑性増すね。」
「そうですか。ありがとうございます。」


そうやって微笑む紳士に、そんな称号も満更でもないなと改めて感じた。






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