朝礼前のチャイムが鳴ると、クラスの女の子も自分の席に戻りだす。はあ、やっと静かになった。今日は朝からうるさくって敵わないわ。 「ところで、俺の席はどこかな?」 「あ、幸村くんの席はあそこ…窓側の、…松山さんって子の隣よ。」 やっと女の子たちが席に戻りだしたかと思えば、ん?なんかたくさんの女子の視線が…。ってあれ全員?こっ、怖!!なんで私睨まれてるの…。もーやだ。 「ありがとう。それじゃあ。」 「幸村くん、後でね!」 「ああ、また後で。」 きゃあ!と沸きあがる歓声。あっちの会話は人が多すぎて私には何も聞こえないのだけれど、まあ、王子様幸村くんが何かキラキラな事でも言ったのでしょう。あ、そうか。幸村くんが私の隣の席だから、みんな私のこと睨んでたんだ…。 幸村くんを取り囲んでいた子達が散らばると、ようやく幸村くんの姿をはっきり見ることができた。うん、確かに。美人さんだなこれは…。 ずるいだとかうらやましいだとか女の子の声がたくさんいろいろ聞こえてくるけど、無視していいよね。だって私関係ないし。そんな女の子達を余所に幸村くんは席につくと、私に話しかけてきた。 「初めまして、松山さん。幸村です。これからよろしく。」 ふわっと笑顔が自然にでるところが、女の子達からの評価が高いんだろうな。顔もきれいだし。…にしても、近くで見るとなお美しい。 「いえいえ、こちらこそ。わからないことあったらなんでも聞いて。」 きっと世の中の標準的な女の子なら、ここでさらに気の利く女アピールみたいなことできちゃうんだろうけど、悪いが私にそんなスキルはない。隣がイケメン男子だろうがアキバ系男子だろうが私には関係ないの。これが私の普通だもん。幸村くんはそんな私にも相変わらずのパーフェクトスマイルを返してくれる。ご丁寧にどうも。 「ありがとう。キミにはテニス部の奴らがたくさん世話になってるみたいだから、会えて嬉しいよ。」 「へ!?な、何?何で私のこと知ってんの!?」 ちょ、ちょっと持て。私、幸村くんについてはテニス部の部長としか認識がない。しかも知ったのはついさっきなのに!それに、私が幸村くんのことを知っているのは有名人だからだけど、彼が私を知っている理由なんてものは何もない。まあね確かにジャッカルやヒロシや(以下略)とはみんな仲いいけどね、どうして幸村くんがそれを、というよりも私の存在を知っているのさ。 「フフッ、松山さんって面白いね。」 「いや、何も面白くないよね。私今かなりびびってんだけど!」 「あ、驚かせてごめん。丸井が1年の頃からよく帰りに松山さんと食べ歩きに行くって言っていたから、自然と俺も名前覚えたんだ。」 ああ、そうかブン太か。成る程。部活のあとほぼ毎日と言っていいほど1年のときは出かけてたからなあ。最近はそうもいかないけど…。 「成る程ブン太ね、成る程成る程成る程。」 「そのネタ、古くない?」 「・・・うん。なんか、ごめん。」 特技は時代に乗り遅れることです☆いや、本当に自慢できないんだけど。なんかね、幸村くんを前にすると、自分の惨めさがよく分るよ・・・。 「あはは、やっぱり松山さんって面白いや。あいつらが気に入るのも分るよ。」 「え、私気に入られてんの?」 「ああ。知らない?あいつら女子とはあまりつるまないからさ。」 「あれ・・・?そーだっけ?…あ、でも、確かに。」 そういえば、人気があるから取り巻きみたいなのはいるけど、あいつらが特定の女の子とつるんでるところを見たことがない。まるで気にしていなかったけど、私みたいなののほうが珍しいのか・・・? 「だから俺も気になってたんだ。」 「へー・・・って、え?今、何て?何を?」 「今度は俺が松山さんにお世話になる番かもね。」 へ?…はいいい!?幸村くんが?私に!?滅相もございませんですよね。その逆なら十分あり得るだろうけどねっ! 「ゆ、幸村くんなら、私なんかの力なんて借りなくても立派に生きて行けるよ。むしろ迷惑かけるのは私のほうだと思うのですが・・・。」 「そんなことないよ。」 はい、きましたっ!!パーフェクトスマイル!!周りの視線がすっごく痛いです!たすけてー・・・。うん、でも女の子達があそこまで叫ぶ理由がなんとなくわかったよ。だって、美しいもんね!本当に私、女でごめん!性別取り替えようか、そうしよう!そうすれば全てうまくかみ合うね! 「お、おっけー!何か困ったことがあったらなんでも言って。私でいいなら力になるからね。」 「本当に?ありがとう。それじゃあさっそくだけど、テニス部のマネージャーになってくれないかな?」 は? 「えっ…それは…ちょっと…」 あれ?なんか、話が、違うぞ・・・? 「なんでもって言ってたよね?俺の聞き間違えかな?」 あれ、私の拒否権不在? 幸村くーん、笑顔怖いなあ。あはは、あは・・・。 |