着替えを済ませ、幸村とともに教室に向かう廊下を歩いていた。だけど、C組の教室に近づくにつれ、周りが騒がしいことに気付く。おかしい、いつもとは様子がちょっと違う。

「何かあったのかな?」
「この時期だし、あまり良いことではないだろうね。」

幸村が不吉な発言をするもんだから、一気に教室へ行くのが憂鬱になった。そんな、もう学祭まで3週間を切ろうとしてるのに、なにか大きな事件が起きては困る。だけど残念なことに、幸村の予想は見事に的中してしまったのだ。


「…みーちゃん!?大丈夫!?」


教室に入ると椅子に座ったみーちゃんをみんなが囲んでいた。彼女の足に目を移すと、そこにはあり得ない方向へ曲がる足首が。…嘘だ。

「いま、保健室の先生を呼びに行ってる。」
「だけど、多分…、」

そう周りが私たちに告げると、みーちゃんは顔を手で覆い、ごめんなさい、ごめんなさいと泣き出してしまった。彼女はさっき教室の近くの階段を踏み外し転落。その時着地に失敗して、左足首をやってしまったらしい。

「みーちゃん、大丈夫だよ。みんなでなんとかするから。」
「そんなことより、足、痛くない?」

周りが必死にフォローするが、それでもみーちゃんは涙を堪えることができなかった。本人の意思に抗って流れ続ける涙。きっと、悔しいんだ、みーちゃんも。いいんだよ、泣いても。その気持ちわかるよ。私も幸村を見てきたんだもん。

保健室の先生が来ると、そのままみーちゃんを病院へ連れて行った。残されたみんなは呆然とため息を漏らし、しばらくそこに立ち尽くすばかり。当然だ、よりにもよって主役が、舞台に立てなくなってしまったのだ。主役がいなければ舞台を完成させることはできない。

「あのね、みんなこんな時にあれなんだけどさ、」

重く沈んだ空気をわって声を上げたのは、衣装チーフを務める仕立て屋の子だった。みんなが彼女に注目する。

「…代役のことなんだけど、私は侑紀ちゃんにお願いしたいって思ってるの。」

一斉にみんなの視線が集まった。え、今私の名前呼んだ、よね…?

「えっと…、なんで私?」
「実はまだ全部の衣装が完成してなくて、白雪姫の衣装を直してる暇がないの。だからみーちゃんとなるべく同じくらいの背の子がよくて」

そうなると侑紀ちゃんくらいしかいないの、侑紀ちゃん、お願いします!と頭を下げられた。そんなことされたら、こっちもどうしたらいいのかわからない。本当のことを言えば、嫌だ。主役なんて私には向いてない。だけど、誰かがやらなきゃいけないんだ。それに、ここで私が駄々をこねればみんなに迷惑をかけるだけ。わかってるよそんなの。

「…わかった。いいよ、私やる。」

さっきまで混乱で歪んでいたみんなの顔みんなの顔が和らいだ。教室中が拍手でわいた。

「よーし、みーちゃんに顔向けできるくらい立派な白雪姫になってやるから!」

立派な白雪姫ってなんだよとみんなが笑う。
そう、みんな笑ってたほうがいい。これでいいんだ。





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