S1は真田くんの勝利に終わった。最後は、真田くんなりに手塚さんに決着をつけることができたようだ。D1の蓮二と赤也の試合もハラハラさせられたけど、無事に立海が勝利をおさめることができた。あと一試合、勝てば立海の優勝が決まる。みんなの三連覇という目標が達成できるんだ。赤也が戻ってきたらすぐに手当ができるようにと救急箱を整えていたら、向こうからやってくる仁王とたまたま目が合った。そうだ、次の試合はS2、仁王だ…。自分でもびっくりするくらい固まって一瞬目が逸らせなくなる。慌てて平然を装い救急箱へ向き直ると、仁王は私の目の前を通り過ぎて足を止めた。 「何も言ってくれんとは、さみしいのう。」 胸がすとんと重くなる。2人きりになった瞬間、かすかにだけど感じてしまうこの違和感は、一体いつになったらなくなるのだろうか。 「…、頑張って、応援してる。」 「よう見ときんしゃい。」 仁王はラケットを軽く上げると、そのまま振り向きもせずに行ってしまった。次のS2は、青学の中でも曲者と有名な不二さんが相手だ。会場から歓声が湧いたから、思わずコートの方へ駆け寄ると、不二さんはもうすでにコートへ立っていた。あれが、仁王の対戦相手、不二周助。 「仁王と何を話していたの?」 ベンチに座っていた幸村と目が合ったと思ったら、前置きもなしにさっきの仁王との会話について聞かれた。私が仁王と何しゃべっていたって勝手でしょ。あんたに何の関係があるのよ。 「…別に。」 「愛想の欠片もない返事だね。」 何も返事はせずに、私はもう一度だけ不二周助を一瞥してから、その場を逃げるようにして立ち去った。 「消毒するからね、しみるけど我慢して。」 「…っ!痛って…。」 「ん、ガーゼ当てて、…補強して…と。これでよし。」 赤也の傷は数は多いがそれほど酷いものではなく、止血してやればすぐに血は止まった。ガーゼを当てて包帯を巻いて簡単な応急処置は完了だ。 「あざっス。あ、先輩、もう仁王先輩の試合始まりますよ!」 早くしないと、そう言ってコート側へ駆けていく赤也の先には、 「仁王…。」 あの日と同じ、仁王の姿。 「ほら、仁王。忘れ物。」 「げっ、…学級日誌。」 「理科室に置いてったでしょ。」 「頼む侑紀、続き書いとおて。俺、今から部活に行かなきゃならんぜよ。」 「ヤダ、文字でバレるから。ほら書くの!」 「生徒所感なんていらんじゃろーが!!」 「ごたごた言ってないで書く!一緒にネタ考えてあげるから!」 S2の試合が終わった。仁王は、負けた。 仁王も、あの天才と呼ばれる不二さんの前で、手塚さんや、四天宝寺の白石さんになって激しい応戦を繰り返した。しかし、やはり実力の前では埋めることのできない力量の差に圧巻され、最後は不二さんの新しいカウンターを前に手も足もでずに負けてしまった。疲労のせいなのか、ショックを受けたのかわからないけれど、彼はさっきからずっと選手控えの席に座って項垂れているだけだ。余りにも見ていられなくて、私は仁王の隣の席へ腰かけた。 「お疲れ。」 「……。」 「何もないとは、さみしいねえ。」 「あー悔しい。悔しい悔しい悔しい!」 さっきの仁王の言葉をそのままお返しすれば、驚いたことに仁王は彼にしては珍しいくらいの大声でわめき始めた、かと思えばそれは程なく収束を向かえ、またぐったりと頭を垂らす。不二さんに負けたことが、よほど悔しかったのだろう。 「見てたよ、ちゃんと。」 「…あんな格好悪いとこ見んでもよか。」 「バカ。」 見ててって言ったのは自分じゃんか、そういって仁王の銀髪をぐしゃりとやれば、手を振り払われ、ヤツは顔を上げた。 「次はもっとかっこいいとこ見せちゃる。」 さっきまでへこたれていた姿はどこへ行ったのか、そこにいたのはいつもとなんら変わりのない得意げに笑う仁王。私がひとつおおきくため息をついて、約束とげんこつを突き出せば、仁王のげんこつが私の手にこつんとぶつかった。 |