「おーっ、すごー本物みたい!!やるね、ペンキ班」

教室に戻る廊下で、ペンキ組がせっせとパネルに絵を描いていた。これがすごいのなんのって…、すごい!後から来た真咲たちもうおおおと歓声を上げるほどだ。まるで写真みたいなクオリティ。せんちゃんが絵上手なのは知ってったけど、まさかここまでとは…!

「でしょ!!幸村くんがすごく上手だから大助かりさー!さすが侑紀、いい人材つれてきたねー。」
「え!幸村って絵上手いの!?」
「うん。廊下によく絵飾ってあるの知らんの侑紀?」
「うそ!知らんー!」
「ははっ、やっぱりそうか。侑紀らしくていいね。」

大きな声でふきだした幸村に、みんな一瞬言葉を失い、しばらくして後ろから真咲筆頭にきゃあきゃあと声が聞えてきた。せんちゃんもちょっとびっくりしたみたいで、目を大きくした。ああ、そっか、みんなは幸村の澄まして笑うとこしか知らないんだ。なんだかんだでみんなの知らない幸村を、実はたくさん知ってるんだ私。よくわからないけど、感情にしたら喜びのような思わず笑みがこぼれそうな感覚に襲われた。…これは所謂、優越感、というやつかも。

「それって、どういう意味?」
「フフ、そのまんまの意味だよ。」

さっきの言葉に一応はむくれてみたけど、相変わらず幸村は笑ったままだ。中性的な顔立ちのせいもあって、かっこいいというよりは…、美しいという言葉の方がしっくりとくる。目が離せなくなる。ああ、うん、なんだか私、幸村の笑った顔好きだなあ…、って嘘、うそ、ウソ、USOだ、嘘だってば!!そんなことありえるわけないじゃん!!ひゃー何考えてんだ私。

「せんちゃんたちも教室行こうよ!侑紀が休憩にしていいってさ」
「んー、行く!幸村くん、付いたペンキ乾いちゃうから使った筆はあそこで洗ってね。」
「わかった。」

大道具班がぞろぞろ教室に足を向けたので私も後を追う。みんな早く教室のクーラーにあたりたいらしく、気持ち速足になっていた。けれど私が足を一歩踏み出すと、後ろから誰かに強く腕を掴まれたので、足を止め振り返る。…幸村だ。

「…幸村、どうかした?」
「俺のこと、もうちょっと男扱いしてくれてもいいんじゃない?」
「…へ?」
「俺はペンキで、侑紀はのこぎりって、明らかに人選がおかしいと思うな。」
「…それは、」

確かに、幸村は大工作業から外した。これは故意だ。だってのこぎりや金槌を持ったまま、この間のようなことが起きてはこっちとしても困る。危険だ。

「でもさ、もしこの間みたいなことになったら危ないでしょ。」
「この間は、テスト前で睡眠不足だっただけだよ。疲れからくる神経過敏だ。医者にもそういわれた。あれは、俺の不注意だ。」
「んー…、そう?でも、本当に絶対大丈夫?のこぎりだって失敗したら手を切るし、金槌だって、足の上に落としたら走れなくなるよ?手も痛くなるし…。」
「…っく、ふふ、あはは!」

さっきの笑いなど比じゃない程に、幸村が大声で笑い出した。さすがの私でもびっくりするくらい豪快な笑い方だ。どうにかなったんじゃないかって思うくらい、こんな風に笑い声をあげるコイツを私は初めて見た。というか、大声あげるほどなにがそんなに面白かったんだろう。

「な、何笑ってんのよ!」
「いや、母さんみたいだなって思って。それに、それ全部侑紀の経験談だろう?」
「え…っ」

ほら、といって幸村は私の手を掴み、開く。そこには人に見せるのには恥ずかしいくらいたくさんの痣と、かさぶたと絆創膏だらけの、私の手。

「女の子がこんな怪我まみれになったら、だめじゃないか。」
「でも、別に私のことを女の子扱いする人なんていないし…。」

みんな私のこと逞しい!って褒めるんだから、だから大丈夫!と笑ってみせたが、幸村はううん、と首を横に振るだけだった。

「俺が許さないの。今度からは俺がやるから。」
「……。」
「返事は?」
「…はい。」
「ん、いい子だ。」

そう言って幸村は優しそうな笑みを見せるとくしゃりと私の頭を撫でた。そしたら、一瞬心臓がびくんと跳ねて、自分の顔が、…かすかにだけど顔が赤くなるのがわかった。変なの、ただびっくりしただけなのに、なんだ、コレ…。



世界は確かにきらきらとやさしい



「あのさ、幸村。」

「ん?」

「せんちゃんに次からペンキやるって言ったら、アンタには無理だわって言われちゃった…。」

「……そっか。」









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