スポーツ大国の立海のグラウンドはそれはまあ立派なもので、強い部活になればなるほど大きな敷地を割り当ててもらえるらしい。どの部活もその手の世界において伝統のある強豪だ。そしてその中でもテニス部は群を抜いてトップな存在。テニスコートは6面。テニススクールよりも下手したらいい環境が整っている。今日は数少ないオフの日らしいが、コートでは練習する部員たちの姿があった。さすが、全国ナンバーワンの実力校というところか。そして幸村の話によれば、今日はレギュラー陣たちを集めてミーティングを兼ね私の紹介を行う、らしい。あ、だから遅刻厳禁なわけだけど。


「はい。ここが部室だよ。鍵は守衛室で受け取って、授業中は顧問の先生に預かってもらう。帰りはまた守衛室へ返却。」
「しゅ、守衛室…。」

なんか厳重。でもこれくらいやってもおかしくはない、か。

「コートの鍵も一緒についているから、絶対失さないでね。」
「…はーい。」


テニスコートのすぐ脇に建っているクラブハウス。敷地が広いから、各部一つ一つ独立しているらしい。


「部員たちはもう集合しているだろうから、遅れたことはきっちり謝るんだよ。」


軽く首を振って頷く。…しかしその必要性はないんだな。ふふ。幸村はガチャリと部室のドアノブをひねって扉を開けた。




「やあ、みんなまたせ…



「「「「「「「退院、おめでとー!!!」」」」」」」



ぱんぱーんと軽快に破裂音がなり、クラッカーからカラフルな紙吹雪が幸村目掛けて飛び出した。紙屑まみれになった幸村は目を何度かぱちぱちさせて、何が起きているのか理解するのに必死なようだ。


「これは…?」
「へへっ見たらわかるでしょ部長!お祝いパーティーっすよ〜!」


もじゃもじゃくんが幸村のところまで駆け寄ってきて壁を指差す。そこには『幸村復帰祝賀会』と達筆な毛筆で書かれた紙看板が掲げてあった。真田くんの字かな。部屋をよく見渡せば、飾り付けも間に合ったようだ。


「いやーにしてもナイスだったぜぃ侑紀!まじ助かった!」
「ホントよ、時間稼ぎ大変だったんだから!」


ブン太が私の方に駆け寄ってきて、軽くハイタッチを交わす。終礼後から私がうだうだしていたのは何を隠そうサプライズを決行するためだったのです。なんだか途中思わぬ方向に進んでいったけど、なにはともあれ役目を果たせて本当によかった!


「…まさか、侑紀はさっきからこのために時間稼ぎしていたの?」
「そうそう、俺らが頼んでさ!」
「全く、幸村相手じゃ何個命があっても足りないって。」
「へえ、それで何十分もトイレにこもっていたのかい?」
「はっ?お前トイレなんかこもってたの?」
「はあ!?ちょっと、幸村!!」

クスクス笑う幸村に、くっせーくっせーと騒ぎ立てるブン太。うっぜーうっぜー!私だって好きでトイレこもってたわけじゃないんだからな!せっかく人が協力してやったのに!

「こらこらブンちゃん。あんまり侑紀をからかっちゃいかんぜよ。相変わらず侑紀はいい香りじゃき。」

のう、と言っていきなり私の肩に顎を乗せるように抱きついてきたのは、なんと私の天敵、仁王雅治。ってちょ、ふざけんな!!

「うわちょっと気持ちわるっ!ふざけんな離れろ変態!」
「人聞きの悪いのう。侑紀ちゃんの匂いを確かめてただけじゃて。」
「それがキモいのわかんないわけこの変態!!」

私がじゃれてくる仁王を振り払うのに必死なところに、ブン太がさらに追い討ちをかけてまた騒ぎ始める。あーもう、鬱陶しい!


「仁王、丸井。いい加減にしろ。今日は精市のために開いた会だ。」


すっと奥から現れた男の子が、あっという間に2人を制止した。すご。あれ?でもこの人どっかで見たことあるよーな。気のせいかな。


「そうだ。趣旨を忘れて浮かれるなんぞたるんどる!2人ともグランド30周!」


真田くんの掛け声に、はあああ!?とブン太は叫び声をあげ、仁王はさっと逃走大勢に入った。全くあんたらは…。


「フフ、いいよ真田。賑やかな方が楽しいし。いままで、苦労をかけたね。」


幸村が、笑った。ああ、こうして仲間に接するときの幸村は初めて見たかも。教室でしている愛想笑いじゃなくって、上手く言葉にできないけど、なんかこう、お互いの信頼関係ってのがよくわかるような感じ。真田くんは照れ隠しのためか、顔を背けて問題ないとつぶやいた。待ってやばい、レアだよコレ。照れた真田くんなんて初めて見たっ!


「さあ、侑紀。知り合いも多いかもしれないけれど、自己紹介しておこうか。」


幸村がぽん、と私の肩をたたいた。ああ、そうだった。私の紹介も兼ねてたんだっけ…。


「3-Cの松山侑紀です。不束者ですが、マネージャー精一杯やらせていただくので、よろしくお願いします!」


拍手喝采とはこのことを言うのだろうか。8人とは思えない程の拍手の大きさに戸惑いながらも、嬉しくなった。こんな私でも、歓迎してくれるんだ。そんな胸の高鳴りをよそに、ジャッカルがそろそろだなと祝賀会の文字が掲げられた紙の方へ向かう。…ん?





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