私の腕を掴んでがつがつと廊下を進む幸村。うっ、道行く生徒の視線が痛い。とてつもなく痛い。ある程度進んで人がいないところにくると幸村が足を止めた。


「ねえ、一応聞くけど」

振り返らないで幸村が私に話しかけてきた。なんていうかな、雰囲気でわかるよ、怒ってますーってね。ああ、怖い怖い。


「なんであんな面倒なことしたんだい?」

今度は振り返って私を見た。あれ、怒ってない?というよりちょっと、悲しんでるような…顔。なんだよ、なんで幸村がそんな顔するのさ。調子狂うじゃんか…。


「…だって幸村、私の話全っ然聞いてくれないし。」


雰囲気に流されて私もつい本心を答えてしまった。だって幸村、私に了承なんて取ってくれないじゃん。自分のペースで全部運んでいくじゃん。なんで私の話、なんにも聞いてくれないの?私にだっていろいろ考えはあるんだよ。テニス部は好きだけど、大好きだけど、自分の立場が変わってしまうのがすごく、怖かったのに。私のこと、もっと知ろうとしてよ…。そうやってドロドロしたよくわからない気持ちが溢れ出して、止まんない。


「…まさか、それで拗ねたの?」


びくと体が揺れた。うそ、私動揺してる?拗ねた、か。はは、そうだよね。ただ小さな子が駄々こねたみたいだ。かっこ悪い。「拗ねた」って言葉があまりに図星すぎて反論する気にもなれないよ。あーあ私、鬱陶しい女。


「ッフフ、可愛いな、侑紀は!」


あははっ、と声を出して幸村は笑い出した。さっき教室にいたときでは考えられないくらい大きな声をだして、彼は笑い続けている。え?ちょっと、本当になんなのどうしたの…!?なんでこんなにウケてるわけ。まるでついていけない。


「あはは、ごめん、ごめん。本当にマネージャー嫌がってたらどうしようかと思ってね。」

笑うのをやめた幸村の表情からはさっきの悲しさなんていうのはすっかり姿を消していた。そして、真剣に私を見る眼差しに驚いた。幸村は、ちゃんと、私のこと見てたよ。なのに私一人で拗ねちゃって、やーもう、恥ずかしい。


「さあ、部室に行こうか。」

幸村に腕はもう掴まれなかった。そして彼はは体を前に向けて歩き出す。

「あ、待って」

「どうかしたかい?」


言うしかない。侑紀、今しかないんだから。
覚悟を決めろ、そう心の中で呟いて幸村を見た。




「…トイレ行っていいですか?」





初めて、幸村のことがかっこよく見えた瞬間。





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