そうか、私は世の中では美人に分類されるのか…。ぽかんとそんなことを考えていると、横を山Bが通り過ぎた。あ、やば、終礼遅れる。

「ヒロシ、変なこと聞いてごめん。」
「あなたらしくないですね。」
「そう、かな。…そうだね。」

確かに、こいつらの前で自分があーだこーだなんて言ったことなかった。そのままの自分で、有りのままの自分で、何も気にせずにいられたから。だけど、気づかないうちに私の知らない世界に自分がいたみたいで、なんていうの…今すごく不安だ。


「あなたは、あなたですよ。」


そんな不安そうな顔しないでください、と言ってヒロシは笑う。ああ、やっぱ全部わかられてるや。そういえば、中1のときブン太やジャッカルと仲良くなって、そこにヒロシもいて、みんなタイプはバラバラだったけどそれがすごく楽しくて、毎日一緒にいたんだっけ。当たり前すぎて忘れてたけど、いつも一緒だったんだ。


「ありがとう。」


一人でじーんとして泣きそうになったけど、頑張って堪えた。どんな時でも、人前で泣けないのは私の長所でもあり、短所でもある。そりゃ思いっきり泣けたら楽なんだろうけど、だからといって心配もかけたくない。ヒロシは一言いいえと一言返事を返すと思い出したように話を続けた。


「そういえば、あなたをマネージャーに推薦したのは、私たちなんですよ。」

「…は?どういうこと?」

今朝の幸村の言葉が頭に蘇る。ちょっと待って、推薦?今までの幸村の態度すべてのつじつまが、通った。でも、なんで私が推薦されるんだ。

「侑紀さんなら、マネージャー業をやりこなす責任感も、強さも、忍耐力も持っていますし、何よりも、女性からの嫉妬や妬みを1番受けにくいポジションにいました。」
「受けにくいポジション?なにそれ?」
「あなたほど、容姿端麗な方に勝負を挑もうとする女性はそういません。」
「…よく意味が分からないけど…。」
「女性は、容姿で敵わないと思った相手に、わざわざ勝負を挑むなんてことは珍しいという意味ですよ。」

あっけにとられた。そうなのか。じゃあもしかして私が今までなんなく生きてこられたのはこの容姿のせいでもあったりしちゃったりするのかな…。いや、でも変な理屈だと思うけど。

「スポーツというのは、何かと男女の関係が影響するものです。だから、幸村くんがマネージャーを置いてもその諍いを避けれる人物はいないかと仰ったので、私たちはあなたを推薦しました。」
「そう、なんだ。」
「ですが、そのせいであなたに迷惑をかけてしまったようですね。幸村くんも、あなたに無理をさせないよう私たちのことは話さなかったようですし。」

すみません、とヒロシは頭を下げた。そんな、全然ヒロシたちは悪いこといてないよ。だから頭なんて下げないでよ。

「いや、私は目立ちたくなかっただけだから。でも実際、私よくわからないけど有名だったみたい。」

確かに、視線を感じることだってなかったわけではない。知らない人と目が合うこともよくあった。

「でもやはり、あなたの言った通り今までの日常は保障されないかもしれません。」
「うん。」

それはわかってる。だけどもう、今までみたいに生きていく自信もない。どうせ、周りの目は気になってしまう。

「それに、リスクだって多かれ少なかれ今まで以上に背負うことになります。」
「うん。」

それだって、わかってる。テニス部がどれだけ人気か、痛いほど知ってる。仲がいいからって一緒にいても、女子がこそこそ言うのは無くならなかった。だからといってこいつらにそっけない態度はとりたくなかったから、そこは我慢したけれど。3年近くかけて、ようやく最近は静かにはなってきた。

「それでも、私たちをささえて下さいますか?」

臆さない私をみて、ヒロシは最後の質問を私に尋ねた。何言ってんのよ。誰よりも近くであんたたちを見つめてきたのは、この私なんだからね。

「当たり前じゃん。」

ヒロシは驚いたようで目を真ん丸に見開いた。瞬きを一回、口を開こうとしたから、その前に遮るようにして叫ぶ。


「それじゃ、終礼遅れるから!」


逃げるように走った。振り向かない。顔も見ない。

ああ、きっと山Bに怒られるな。




あんまりにも半透明でばかだね





心はもう、決まってるんだから。






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