ドアのところに赤髪。とてもよく目立つのですぐ分る。真咲に一言謝って席を立つとブン太のところへ向かった。

「松山さんて、たぶらかしすぎでしょ。」
「侑紀はそんな子じゃないから!!」

途中ぼそぼそ文句を言った女子を真咲がぴしゃりと一蹴。本当にいい友達をもったなあ。そう、ブン太は私の友達なんだから、私だって臆する必要なんてない。

「どうしたー?」
「いや、お前マネージャーやるんだろぃ?」
「はは、本当広まるの早いね。」

もう隣のクラスはアウト、か。思ってた以上だ。怖いな、私の日常はきっともう保障されない。

「いや、これは幸村くん情報だけどな。」
「え、じゃあまだ私の噂は広まってないの?」
「わかんね。テニス部のマネージャーなんて初めてだから、やっぱ広まるんじゃね。」
「はあ、それ本当だったんだ・・・。」

正直ショックだ。ただの噂だと信じていたかったのに、これでは快く引き受けることは難しい。私が変わらなくても絶対に周りが変わってしまう。

「なあ、お前さ、幸村くんに人生台無しだって言ったんだって?」
「・・・言ったけど?何よ。」

だって本当のことじゃない。

「俺達のマネージャーやって人生台無しになるのかよ。」
「そうよ。テニス部のマネージャーなんてやったら一気に注目の的じゃない!」
「それが何だってんだよ?」
「それがって…、私はね、今まで目立たないように目立たないようにって生きてきたの。女子の変な争いにも巻き込まれたくなかったし、変な嫉妬もされたくなかったの。だからそのために地味に今まで生きてきた!それがどれほど大変だったかわかる?」

今までしゃしゃってるだとか、いい子ぶりっ子だとか言われないように生きてきた。唯でさえでかい身長のせいで悪目立ちしちゃうし、たまにとんでもない勘違い女がいるもんだからね!そんなやつらにも勘違いされないように、上手く加減するのは本当に難しかったんだから。

「はあ?お前、それ本気で言ってんの?」
「!!どーゆー意味よっ」

内心怒り爆発。あんたなんかに何が分るのよこのバカブン太!イライラMAXになりかかっていると、ほら、見てみ、なんてブン太が後ろを見ろと顎でしゃくる。何がっ!って怒りに任せて振り向けば、2人の女の子とばっちり目が合った。・・・何?

「あ、あの!松山侑紀さんですよねっ!」
「そ、そうだけど・・・。」

誰だ誰だっ。いそいそと詰め寄ってくる2人。知らない私この子達のことなんて!どうしよう、さっそく噂を聞きつけたテニス部ファンが私を叩きにきたんだろうか・・・。そんなことする子たちには到底見えないけど、人は見かけによらないというし。

「あの、握手してください!!」
「・・・・・・・へ?あ、握手?別にいいけど。」

何かと思ったら、手を差し出され一気に拍子抜けした。な、何なの。仕方なく手を差し出すとうわあああああっと2人が声を上げる。…一体何が起こったの?私にはこの状況がまるで理解できない。さっぱりだ。

「というわけだ。」

ぽん、と後ろから肩にブン太の手が乗った。だから、さっぱり理解不能だっつーの。

「もともとお前に地味で目立たない日常なんて、これっぽっちもなかったんだよ。」
「は、はあ?どういうこと?」

成績はまあまあ、委員会は美化委員、スカートだって標準、髪の毛は真っ黒、靴下も普通、鞄にはキーホルダーすら付けてない。こんな私が目立つ要素なんてどこにあるのよ。

「まだわかってねーの?目立つんだよ、お前。」
「だから何がっ!」








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