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「すまないな、名前」



「ううん、大丈夫だよ。楽しみにしてたけど、打ち合わせじゃ仕方ないね。それじゃあ弦一郎、気をつけてね。」




私と弦一郎は今度の日曜日に、映画を観に行く約束をしていた。いわゆるデートというやつだ。けれど急遽、関東テニス部強豪校で練習試合を行うために、打ち合わせが入ってしまったと、副部長である自分も出席しなければならない、と帰り道にぼそりと申し訳なそうに告げられた。会場は東京だから、どうやっても、私との予定を変更するしかない。



「…ああ。また今度、一緒に出かけよう。」



「うん、約束ね!」




そういって気丈に笑ってみるも、心の中では半分泣きそうだった。最近は大会も多く、練習も遅くまであるため、弦一郎と2人きりで出かける事なんてほとんどなかったのだ。まして、ようやく入ったオフの日に、前から観ようと約束していた映画を観に行く予定をたてたが、これも泡に帰してしまった。いい加減、限界だ。



「それでは名前、また明日学校でな。」



「うん!ばいばい!」



家まで送ってもらい、弦一郎の背を見えなくなるまで見送る。彼の前で泣いてはいけない。そう、そんなことしたら彼を困らせてしまうだけだから。



(でもね、弦一郎、)

(2人で観ようって約束した映画)

(もう終わっちゃうよ?)






翌日、昨日キャンセルされた約束を思い出しながらぼんやりと廊下を歩く。

そう、しかたないのだ。弦一郎はあの王者テニス部の副部長。私なんかよりも、部活を優先させなくてはいけない。当然のことだ。


わかっている、頭では十分わかっているのに、心がついていかない。
もっと一緒にいたいのに…





「名前」


「きゃ!」



ドン、と鈍い衝撃音
急に目の前に現れた大きな壁を避けることができずに軽くよろめくと、逞しい腕がひょいと抱き寄せる。



「げ、弦一郎!?」


小さい私の体は、簡単に弦一郎の腕の中に収まった。




「すまなかったな、」



「へ?」



抱き寄せられ、謝られ、
何から整理していけば、この状態を上手く頭の中に収められるのか全くわからない。




「お前との約束、取り消してしまった。」

自責の強い声色でそっと囁く。それだけで、私がどれだけ弦一郎のことが好きなのか自覚させられてしまう。


「…そんな、しょうがないじゃん。」



顔を埋める、見られたくないから、悟られたくないから。こんなに優しくされたら、泣いてしまうよ。



「さっきから、上の空のお前を見てたら、耐えられなくなった…」



「…ごめん…」


「なぜ謝る」



「わかってるの、ちゃんと!弦一郎は副部長だから、部活を大切にしなきゃいけないって。

…だけどね、私、もっと弦一郎の側にいたいの…もっと弦一郎に触れていたい…わがままな女でしょ?」



気づくと私は弦一郎にしがみつき、目からは頬に涙が一筋伝っていた。私本当にヤな女だ。




「それは、俺も一緒だ。」



「え…っ」




「俺ももっと名前と一緒にいたい。だが副部長という立場上、制限しなくてはならないことも多い。それでも、俺は名前と一緒にいたいんだ。」




「弦一郎…」



抱きしめられていた体が、どんどんと熱を帯びていく


今、とても幸せ。





「これからも俺はお前に寂しい思いをさせるかもしれない。それでも、これからもずっと俺と一緒にいてくれるか?」





「もちろんだよ、当たり前じゃん。」





ああ、やっぱり私、この人のこと好きなんだ


どんなに寂しい思いをしても


あなたを待つのは怖くない









(待ってる、いつだって、あなたのことを)






(む…映画は借りるしかないな)
(ふふっ、私の家くる?)
(な…っ!名前!!)
(あはは、顔真っ赤だよ弦一郎、かわいい)
(……)








The end!


(20100910)


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