「おはよー赤也」





「おーう」
















act.1

る世
(朝は透明で、どこか冷たい)
















朝からちょっと疲れた様子のコイツは切原赤也、私の幼なじみ。とはいっても小学校が違ったからずっと一緒にいる訳じゃなくて、中学の入学式で再会を果たしてしまった良くも悪くも腐れ縁な仲って感じです。



「あーもう、今日の朝練サイアク!」

そういって重そうな通学鞄兼ラケットバックをドスンと机へ落とす

「…だから朝から、通勤電車にゆられてるサラリーマンみたいな顔してんだ…」
「え!マジで!?そんなひどい?」
「うん、ひどいひどい。この世の果てをみてきたような顔してるよ」



「…まあ、果てだったかもな…」
「?、ふーん?」



一旦変な間を残して赤也がとっても意味深な発言を残したけど、突っ込めないまま授業がはじまってしまった。ま、いーか。赤也のことだから、どうせ遅刻でもして先輩にしごかれたんだろうな。なんて、適当な理由をつけ隣で眠りこける赤也を無視して、私は板書を写すことにする。












「…神様仏様僚様!一生のお願いがあるっス!」

昼休みになると、赤也がいまにも泣き出しそうな顔をして、私に合掌してきた。いつも思うんだけど、なんか憎めないんだよね…。

「な、なにさ…?」
「英語の訳と宿題、写させてくださいっス!」
「はぁ?」

一生のお願いというのだから、もっと重いものを予想してたのに宿題とは…、これまた拍子抜けだ。まあ彼らしいといったら彼らしいけれど。

「ホントに!マジで頼むから写させてくれよ!僚ならやってあるだろ?」
「やってあるけど、だーめ。ちゃんと先生に怒られなさい!」

終いには私の制服の裾を掴んで泣きそうな表情で頼む!なんて言ってくる赤也を見てたら、なんかおもしろくなって、ついついいじめてしまった。けど宿題は自分でやるもんなんだから、私は間違ったことは言ってない、はず。

「あーもう頼むから!じゃなきゃ俺、今日居残りさせられて……!そしたら俺、幸村部長に殺されちまう!!」
「幸村部長?」
「そう!幸村部長!」

最近、この名前を耳にする機会が増えた。実際会ったことはないけど、男子テニス部のやつらが、やたら騒いでいたのを覚えている。その中にはもちろん赤也も含まれてた。おそらく時期的に、2年の新しいテニス部の部長だろう


「へーえ、そんなに怖いんだ、その部長さん。」
「いや、部長と副部長は…人じゃねーよ…。」
「…」


朝の世の果てとは・・・たぶんこの人たちのことなんだろうな、なんてなんとなく思った。赤也の怯えようが半端じゃないので、私もちょっと想像を膨らませてみる。いや、でも人じゃないってすごい言われようだよな…。


「頼むよー僚!人助けだと思って!俺、朝も遅刻して、これ以上何かやらかしたらホントに…」
「あーはいはいわかったから!今回だけだよ、次ないからね!」

やっぱり私の憶測は当たっていたよう。まあいつもの典型的パターンなのだけれど。赤也もそろそろ学習したほうがいいと思う。さすがに朝もやらかしてしまった赤也がこれ以上迷惑かけるのも先輩に悪いだろうと思い、幼なじみのよしみで今回だけは写させてあげることにするけど。


「さっすが!持つべきものは僚だよな!助かった〜」


そう言ってうれしそうに飛び跳ねる赤也を見ていたら、思わず吹き出してしまった。うん、やっぱり赤也は赤也だ。






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