「…今日からテニス部のマネージャーになりました。1年、榎田僚です。」






うっわー……














act.4

私を変えるための簡単な呪文
(なんで…こんなことに…)















(なんか、とんでもないことになっちゃったな…。)


結局、私は幸村部長に勝てず、マネージャー事業を引き受けることになってしまった。やっぱり、あんな質問されたら答えられません!あの状況じゃ言うこときくしかないよ…。大勢の立海テニス部員の前で自己紹介を済ます。レギュラーは前の方に固まっているみたいで、赤也の姿も確認できた。目も口もあんぐりあけてる。私も心ではそんな気分だよ、赤也。みんな私を珍しいものを見るみたいに顔をのぞかせる。ほー、マネージャーか。ちゃんと仕事すんのか?みんな言いたい放題。わ、わたしだって好きでマネージャーやるわけじゃないのに…。そう不服に思っていると、気づけば場がしんと静まり、誰かの声がした。


「ところで、精市」


場を静めた声。透き通ったその声のする方を見上げると、さっきの糸目の人。よく見ると端正な顔つきだなあ。鼻筋がとてもきれい。



「なんだい?蓮二」



蓮二…、蓮二さんっていうんだ。あっ、蓮二先輩、かな。蓮二先輩はちらっと一瞬私の方をみて、幸村部長に視線をもどす(見えてるのか見えてないのかわからないけどね)。


「榎田という苗字なら既に部員にいる。新しいマネージャーと榎田を皆が誤認して困惑する可能性100%だ。」


ん…?パーセンテージ?確かに苗字が一緒の人がいるのは不便だけど…。わざわざ確率にするなんて、変わった人だな…。



「ああ。それなら名前で呼べばいいんじゃないかな。赤也だって榎田さんのこと名前で呼んでいるし。」



ね、赤也。と幸村部長が赤也へ微笑むと、アイツ特有のうげっという奇声が聞こえた。



「いや…、それは小さいときからの知り合いだからで…」


頭を掻いて幸村部長から目を逸らす。ふーん、そんなに私と知り合いなのが幼馴染なのがいやなのか。赤也、ひどいな、全く。


「そうか。それじゃあ、俺たちも呼ばせてもらおうか。これからよろしくね、僚。」



答えになっていないような気もするけど、そういって微笑んだ幸村部長はきれいできれいで…。その笑顔が私だけに向けられているものだとわかって、それだからなのか、ぐるぐるする。変な気分。



「よっよろしくおねがいします!私、がんばるので…!」



緊張して歯切れの悪い返事しかできなかったけど、周りの先輩方もそれぞれ挨拶を返してくれたので一安心。思ってたよりも優しい人たちなんだ、テニス部の人たちって。幸村部長の解散!という言葉の後にお疲れさまでした!と部員たちの声が勢いよくと響くと、皆が散っていく。向こう側に、久々に見えるネット。また、テニスコートに立っている自分。二度とこの地を踏みしめることはないと思っていたのにな…。人生何が起こるかわからない。これからも、きっと。後ろしか見れなかった自分にさよならをして、新しい世界に踏み出そう。怖いけど、大丈夫。マネージャーだっていいじゃない。私はテニスがすきなんだから!

その思いはまるで魔法みたいに簡単に、凍ったみたいだった私の心を溶かした。なんだ、私だって待ってたんだ。だれかにまた、もう一度、この地を踏むことを許してもらえること。春が呼んでるよって、眠ってる私を起こしてくれること。自然とあふれてきた笑顔に、幸村部長も私と目があってか笑顔になる。いまちょっと、しあわせの連鎖。






(やっぱり、テニスがすき!)




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