「はい、これでいいよ。」

「ありがとうございます。」


絆創膏を貼るにはすこし面が広すぎたので、傷口にガーゼをあて、テープで止めてもらった。消毒も、思ってたよりしみたから、ちょっと深い傷だったかもしれない。


「僚、何があったんだい?」


心配そうな幸村部長の顔。最近は日も短くなって、夕日が窓から射こんでいた。やわらかな橙色が幸村部長の顔にかかって、いっそう儚げに見える。


「……」


「俺に教えてくれないか?」


私が答えにくそうにしていると、優しい口調で諭された。これ以上心配をかけたくない。深呼吸して気持ちを落ち着かせる。


「…私なんかが、どうしてマネージャーしてるんだって言われちゃいました。」


ぽそり、と呟く。気にしてませんよって伝えたくて、微笑んで。実際気にしてなかったし、あんなこと言われたぐらいでマネージャーをやめたいとは思わなかった。でも一つだけ…。



「幸村部長…。どうして、私がマネージャーなんです?」



初めて会ったときから、ずっと気になってたこと。他の子にはなくて、私にしかないものって何なんだろう。どうして私だったんだろう…。



「私がテニス経験者だからですか?」



めぼしい理由を口にしてみたものの、テニス経験者なんて私以外にもいっぱいいるだろうなと思うと、やっぱり理由にはならなかった。その理由は自分でも何度も考えた。でもきっとそれは答じゃない。


「それは…、そうだね。それもあるよ。でも一番の理由はまた別のことかな。」
「別の…こと?」



何だろう、何も思い浮かばない。だって幸村部長と私は、あのとき初めて会ったのに…。



「フフッ、いいよ。いつか話してあげる。さ、俺はやらなきゃいけないことができたから、いかないと。」



そう言っていたずらっぽく笑うと、椅子から立ち上がり部室のドアへ足を運ぶ。ドアノブに手をかけ振り向いた幸村部長は本当に絵になると思った。


「それじゃあ僚、お大事にね。」



やわらかな夕日に包まれた部室で、あなたのやわらかな笑みに包まれた。夕日は橙から赤へと色を変え、恍惚とした私の心を映すかのように、頬に色を落としていく。






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