ギュッと固く閉じる瞼、だけどいつまで経っても恐れた痛みを感じることはなかった。不思議に思ってうっすらと目を開けば、振り上げられた腕は掴まれ、恐怖に固まる先輩の顔、そして、私の肩に触れる優しい感覚。 act.7 北風と太陽 (雨雲吹き飛んだなら) 「ゆ、幸村部長…!」 「大丈夫?僚」 見上げるとそこには優しく微笑む幸村部長。た、助かった…。でも、後ろから部長が覆いかぶさっているおかげで、いつもより顔が近い。こんな近くで顔見たのなんて初めて。どうしよう、ど、どきどきする…! 「ゆ、幸村くん…」 ようやく我に返った由香里先輩が顔を真っ青にして口を開く。怯えているのか、声が震えていた。 「キミは、僚に一体何をしていたの?」 さっきとは打って変わって、厳しい表情を浮かべる幸村部長には、確かに赤也が怯えるような、相手を恐縮させるなにかがあった。何というか…あんなに綺麗で整った顔でそんな表情されたら、やっぱり怖い。 「…違うの!誤解なの幸村くん!」 「俺は、僚に何をしたのかって聞いてるんだけど?」 「…それはっ!」 あわてた先輩たちはおろおろと何もないのに辺りを見回している。確かに、人がいないと思って連れてきた校舎裏に、普段とは想像もつかないような雰囲気の幸村部長が現れたら誰だって平静を保ってなんかいられない。 「キミの嫉妬に、テニス部の奴らを巻き込むのはやめてくれないかい?迷惑だよ。」 「…っ!」 由香里先輩は言葉を失って、幸村部長の手を振り払うと、逃げるように走り去っていった。後の先輩もそれを追う。す、すごい。私なんか押されっぱなしだったのに…。相手にほとんど何も言わせないで追っ払ってしまった。私をマネージャーにしたときもそうだったけど、幸村部長には何か、相手に有無を言わせないような不思議な力がある。 くるりと向きを変え、私を覗きこんだ幸村部長はさっき見たような穏やかな表情に戻っていた。 「あ、あのっ!幸村ぶちょ…」 そうだ、お礼、お礼を言わなないと!だって幸村部長が助けてくれなかったら…、今ごろ私はどうなっていたんだろう。このいじめは繰り返されていたんだろうか。 「僚、どうしたんだい?その手…」 「へっ…?」 見ると左の人差し指にすうっと一筋血が滲んでいた。気づかなかった。多分さっき洗濯籠をひったくられたときだ…。 「あ、籠でひっかけちゃったみたいで…。でも、大したことないんで、大丈夫です!」 そういって、大丈夫だという合図を込めて手を振れば、怪我をした方の手首をぐいと掴まれた。 「手当てした方がいいね。部室においで。」 傷口を確認すると、幸村部長はそのまま私の手首をひき、部室まで連れて行った。 |→ |