「いってきます!」

マネージャーになってからは、毎日朝練に参加してる。朝は、好き。人も少ないし、空気がきれいだから。もともと朝は早い方だったから、朝練に参加するにあたって、そう苦労はしなかった。むしろ赤也や仁王先輩の方が、遅刻やさぼりの常習犯みたいで先輩たちは呆れている。赤也は、ゲームなんてせずに早く寝ればいいと思うんだけど。

電車にしばらく揺られて、最寄駅で下車。そのあとは立海まで歩いて15分。学校自体運動部が多いから、この時間帯でも通学路にはもう何人か人が歩いている。みんなそれぞれ部活の用具を持って同じ道を辿っていく。こないだまではじりじりと焼くような暑さが続いていた中、最近はようやく涼しくなってきたのだけれど、朝はもう寒さすら感じる季節になった。夏から秋への気温の変化はあまりにも急すぎて、私は少し苦手だ。


「僚!!」


トン、と肩に軽い衝撃をくらった。あ、朝から元気…、誰だろうと思って顔を上げればそこにいたのは爽やかに笑顔を浮かべた…ゆ、幸村部長!?おはようございますとあわてて頭を下げると、おはようと返してくださいました。はわわ、朝から、幸せです。なぜだかわからないけれど、頭が幸村部長だと確認したとき胸が急に高鳴ったの。どうしたのかな、私。


「僚は偉いね。朝からちゃんと練習に来て。それに比べて赤也は…。」
「…赤也は、ゲームで夜更かししすぎなんだと思います。」


ははは、違いない。そう笑う幸村部長はなんだか可愛らしくて、また新たな一面を発見できたようで嬉しくなった。


「あ、そうだ。シルバーウィークって知っているかい?」
「9月にある、大型連休のことですか?」
「ああ、それだよ。よくわかったね。」
「そ、それくらいわかります!」


幸村部長がからかうものだから、ついむきになって言い返してしまった。あはは、ごめんごめん。そういって部長は私の頭を軽く撫でると、反射でぴくんと私の肩が振れる。わ、わ、わあああ、どうしようどうしたらいい?人に頭を撫でてもらうのがこんなに気持ちいいことだったなんて知らなかった。犬か、とつっこみにあいそうだけど、気持ちのいい鳥肌が、消えないんです…!うん、なるほど、犬はこんな気分なのかな。これは懐くなあ。じゃなくって!こんなに余裕がないところ悟られたくなくて必死に平静を、装った。ばれてないかな、うう。


「で、そのシルバーウィークなんだけど、毎年、テニス部の強化合宿をやるんだ。」
「強化合宿、ですか?」
「ああ。3年が引退して、その次の代が形成を整えるためにね。参加するのはR陣だけだけれど、親睦会みたいなのも兼ねているんだよ。」
「えっ…、そんな合宿、私が参加していいんですか?」


部員を一致団結させる合宿だなんて、これも強さの秘密なのかな。さすが立海。だけど、私はまだ入部たったの2週間目。そんな大切な合宿に参加するなんて、おこがましいんじゃないだろうか。それに、私なんて失敗だらけだし、みんなに必要とされてないかもしれない。まだ入部して2週間ということもあって、漠然な不安はいつも背中合わせだった。

「何言ってるんだい?僚ももう、立派なテニス部員じゃないか。」
「ふ、え…。」
「フフ、それにちゃんと練習もするんだ。マネージャーがいなくてはみんな困るよ。」
「…は、はい!」

体の奥底からふつふつとぽかぽかしたなにかが湧き上がってくるのを感じた。うわあああ、嬉しい。嬉しい!幸村部長が、みんなが、私のことを仲間だって認めてくれてる。こんな私でも、必要だって、言ってくれる。思い描いていた最悪の事態はいとも簡単に私を通り抜けていった。どうしよう、私朝からこんなに幸せでいいのかな。私、今すごく幸せだ。





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