先輩が顔を向けた先を一緒になって見る。すると、遠くのグラウンドをランニングしている赤也の姿があった。


「え!?いいんです!そんなわざわざ!私待ってますから・・・!」
「うん、でももうこっち来ちゃったみたいだから。」


そういってその人はふわっと笑う。・・・うわあ、すごくきれいな人。女子でもこんな風にきれいに笑ったら周りが叫ぶ。つまりそれほどの希少価値があるってことです。


「なんすかー?ってあれ、僚!?何やってんだよ、こんなとこで!!」

てってとそのままスピードを下げずに赤也が走ってくると、ばっちり目があった。その途端、赤也の声がワントーン上がる。


「あっ赤也・・・!!あの、さっきはごめん!ホントごめんね!」
「な、・・・わざわざそんなこと言うために来たのか?」
「うん・・・怒鳴ったりして、ごめん。」


赤也は私のためを思って言ってくれたのだろう、そう考えると心が鈍く疼いて居たたまれなかった。できれば今日中に謝っておきたかった。あのときの私は、取り乱しすぎだ。


「何言ってんだよ、俺も悪かったって。気にすんなよ。」



ぽん、と頭に手をのせられ顔を上げると、いつものように笑ってる赤也がいた。よかった・・・、赤也怒ってないんだ。

「・・・へへ、ありがと。」

ちょっと照れくさくなってはにかむと、さっきの教室での騒動は嘘みたいになくなってしまったような気がした。そんな穏やかな雰囲気が私達の間を流れ始めたみたいだ。


「用事は済んだ?」

先輩の言葉で我に返る。ああ、そうだ。赤也は今部活中なんだった。あんまり長居しちゃこれこそ迷惑だよね。先輩には本当に感謝しなくちゃ。

「あ、はい!わざわざありがとうございました。」
「そう。じゃあ赤也、練習に戻って。」
「はいっス!ありがとうございました、幸村部長!!」



ん・・・・?



「ああ、女の子を遅くまで待たせるのは悪いからね。」
「さっすが幸村部長、柳生先輩に負けないくらい紳士っスよ〜!」








「はは、そのくらいにしておいてくれ。赤也。」










え・・・?えぇぇええーー!!!???まっまさか・・・、この人が、あの、



ゆゆ、ゆ幸村部長!?





「ん?どうかした?」


私の中で今、とっても大切な何かが音を立てて砕けた。そんな気がした。


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