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ああ、ついに来てしまった。

来てしまったというのはアレではない。なんたら文明のなんたらかんたらに書かれた地球滅亡の日とか、ちょっと調子悪いな?と思って使い続けていた電化製品が立て続けに壊れたとか、そういうやつではない。単なる自業自得によるツケを払う日が来ただけだ。そう、自業自得。

具体的に言うとクラス一のイケメンの無意識の好意をどうにかちょろまかして誤魔化してきたツケを、今ここで払っている。放課後、教室のど真ん中で。クラスメイトが綺麗に全員揃った状態で払っている。わぁ、まるで授業中のような静けさだ。いつもの騒がしさはどこへ行ったのか。みんな揃って口を噤んでいる。あの爆豪でさえもきっちりしっかりお口チャック。ウワー、逃げたい。
ねぇ緑谷、そんな生温い目で見ないでよ、私だってこんなことになるとはサラサラ思ってなかったんだよ。


それは2ヶ月前のことだ。いつものように食堂で呑気に日替わりスペシャルランチを食べていたところ、前に座っていた轟は何食わぬ顔で爆弾を落とした。

「今城を見ると、心臓がバクバクするんだけどなんでだと思う」

正気か?

勢いでそう言わなかっただけ褒めてもらいたい。一気に煮付けの味がわからなくなった。食事中に爆弾を落とすな。せめて食べ終わってからにしてくれ。味覚を取り戻すべくお茶を一気飲みし、疑問符を浮かべたままの轟へ何事も無かったように告げた。

「突発的な不整脈じゃない?健康には問題ないよ」

我ながら超テキトーな誤魔化し方である。小学生でももうちょっとまともな誤魔化し方を思いつくだろう。
あー、あの時の緑谷、すごい顔してたな。うわマジかこいつ。それ信じちゃうんだ轟くん…って顔。てか言ってた。当の本人は蕎麦を啜ってたおかげで聞こえていなかったみたいだけど。
いや逆に、「それ私のこと好きなんだよ!」とか言い出す方がヤバくない?超ヘタなハニートラップかよ。ソレ絶対轟には通用しないから。言わなくてもわかる。目に浮かびすぎて最早痛い。

さて、現実逃避もほどほどにしよう。
目の前にはつい先程、「俺お前のこと好きなんだと思う、恋愛的な意味で」と言い放ったクラス一のイケメン─轟焦凍が顔色一つ変えずに立っている。返事待ってるやつかな、待ってるよな。でもこっちはまだ動作確認中で、パソコンだって回答するのにやたらめったら時間かかる時あるじゃん、あれなんだって。

勢いに任せ、超絶テキトーな誤魔化し方をした私の言い分も聞いて欲しい。私があんな誤魔化しをしたのにも理由があるのだ。それはもうマリアナ海溝よりも深い.....いや流石に嘘、そんな深くない。

轟焦凍にまつわるあれそれは、クラス一のイケメン、なんかでは済まないのだ。そのくらいで済んだなら全然いい。かわいいものである。大歓迎!
しかし実際はどうだ。彼はトップヒーロー・エンデヴァーの息子であり、体育祭では2位の結果を残している実力者。言わずもがな学校内外に存在が知れ渡っている。最早言う方が野暮ってもんだ。
爆豪が「あっ、コイツヤバいやつだ」という印象で知られているならば、轟は「なんかスゴいイケメン」として知られているだろう。改めて言葉にするとなんなんだ、うちのツートップ。極端だな。ちなみに最近轟の非公式FCができたらしい。うーん、仕事が早いな。

そして、何よりも重要なことがある。
何を隠そうこの私、重度の面食いなのだ。綺麗な顔が好き。綺麗な顔をオカズにいくらでも飯が食える。うっかりしっかり「爆豪って顔は本当にきれいだよね」と漏らした時から周知の事実となってしまったのだが。
そんなものだから、爆豪がいくら暴言を吐いていても「ツラがいいなぁ」で放っておけるし、上鳴のナンパだって「顔可愛いな」で流せるのだ。無論、轟の顔も好きである。今まで出会った人間の中で一番綺麗な顔をしているなあ、とずっと思っていた。
うん、けど彼氏ってなると、なんか、なんか違くない?コレFCの耳に入ったらマジギレされないかな。いや、たしかに顔はドストライクなんだけど。ウチのクラスで彼氏にするなら瀬呂がいい!1-A恋バナ大会でそう言ったらメチャクチャ呆れられた。えぇ・・・ごめん・・・。

話が逸れたが、要約すると「顔は大好きだけど周りがいろいろ面倒臭そうだし、そんな状態で付き合うのは本人にとっても私にとっても周りにとっても良くないんじゃないか」、ということだ。正直あのまま煙に巻けると思っていたから、実際告白された時のことは頭から抜けていた。いくら顔が好きだとしても、「なんか違う」と思いながら付き合うのは双方の利益にならないと思う。・・・と、心の中で思っていても、うまい言葉が出てこない。どうしたもんかなぁ。

「…返事は」
「まッッ、」
てくれ。インターバルもうちょっとほしい。

流石の天然もここまで黙りこけているとなると耐え兼ねるのか、少しだけ伏し目で、こちらを伺うように見つめてきた。いや、その顔やめて。撫でられ損ねた犬みたいな顔しないで。自覚がある。私はそういう顔にすこぶる弱い…!!
そろそろクラスメイトの視線が痛い。早く何とかしろ、って顔してる。私は早急に逃げ出したい。他のクラスの喧騒がずっと遠くに聞こえる。多分、いや間違いなく、今雄英の教室で一番静かなのここだと思う。

「なんとか言ってくれ、流石になんも反応ねェのは傷つく」
「ご、ごめん、ちょっと、てかだいぶビックリして、て…その、ホラ、私面食いだし、轟の顔は大好きだけど付き合うってなるとそれはそれで、轟的にはどうなのかなーって」
「中身も好きになってもらえるよう頑張る」
「頑張るかー」
頑張ってくれるらしい。

どうしよう。なんかもう、いいかな。いいかなって思っちゃったあたりもうすでに絆されている。でも、でもだってしょうがないじゃん!この顔に迫られて好きになるなって方が無理な話だ。いや、まだ好きになってないけど!ああだこうだ考えてすんと黙った私を、彼は何も言わずまだかと待ち続ける。やっぱりちょっと申し訳ない。

「…じゃあ、轟が中身も好きにさせてくれるっていうなら、付き合ってもいいよ」
「! おう、頑張る」
待ち望んでいたオモチャを買ってもらえたような、キラキラした目。
あ、ああもう、そんなうれしそうな顔して、手を握らないで!好きになっちゃうだろ!

先程までの静けさが嘘だったかのように、女子の歓声と爆豪の舌打ちが教室に広がった。爆豪、黙っててくれてありがとう、今度麻婆豆腐奢るね。あと緑谷、不整脈の件はマジで反省してるからいい加減生暖かい視線を寄越すのはやめてほしい。


将来的にこの話は「ショート公開告白事件」として全国区に知れ渡るが、そんなこと、対恋人モードの轟焦凍に振り回されている私には、知る由もないのである。

即オチ2コマじゃない!

付き合って1週間、気が付けば骨抜きにされていた。
それもこれも全部、焦凍がスパダリすぎるせいである。



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