鞄の中身

*登場人物
拝崎 紀喜……学生(語り手)
熾藤 赤音……学生


「紀喜お前さ、何でいっつも銃持ってんの?」

 ポキリと、小気味良い音を立て俺のシャープペンの芯が折れた。黒鉛の欠片は埋めかけのプリントの上を転がり薄い線を付ける。
 学校、教室、自習の時間。赤音はいつもの他愛無い会話の様に平然と、その話を切り出してきた。教員が居ない教室は生徒同士の話声でざわめき、騒がしく、俺達の会話など誰の耳にも入っていないだろう。
 それにしても――、

「何でンな事聞くんだよ……」
「今思ったから」

 赤音とつるんで三年。時々コイツが物凄く面倒な奴だと思う事がある。それが今みたいなシチュエーションだ。何の前触れもなく人の皮裏に触れてくる。そして、それに悪意がないのだから憎むにも憎めない。

「何でだと思う?」
「俺はエスパーか」

 赤音は苛立たしげにそっぽを向いた。訳の分からない突っ込みをする所もまた面倒くさい。まあ、つるむ分には普通に良い奴だとは思うんだけどな。
 とりあえず、このまま赤音の機嫌を損ねたままだとプリントの解答を写させてくれなさそうなので、仕方なく俺は答えた。

「なんとなくだよ」
「ん?」

 赤音は期待していた答えと外れたのか、疑問の声をあげる。俺も赤音の反応は予想外だった。突っ込みを期待していたのだが、思うようにはいかないみたいだ。

「せっかく答えてやったのに何だよ、その反応」
「いや、だって、もっと理由があるかと思った」

 赤音は真顔で言う。コイツが真顔になるのは珍しい。
 けれども、赤音が言うのも尤もだ。凶器を持ってうろつく理由が"なんとなく"なんて、俺なら精神疾患を疑うね。自分の事だけど。
 赤音の想像する理由が気になり、尋ねてみる。

「理由って、例えば?」
「護身用とか」
「残念。ここは日本だし」

 俺はそう言ってシャーペンの芯を出し、途中だったプリントに取り掛かる。質問者はと言うと少々腑に落ちない様子だが、諦めて自分もプリントへとのめり込んで行った。


 俺は赤音に嘘をついている。なんとなく、赤音にはそう言った。けれどもそれは少し違う。 そして、その違いを赤音に説明する機会も必要もないだろう。
 この銃はただ、俺を安定させてくれている物なのだから。


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