情報屋の場合


片岡 公……情報屋
一月 小町……殺し屋

「兄を探している?」

 公は今、一口で言うと窮地に立たされていた。彼の目の前には少女が一人。それが何故公の危機かと言うと、少女の手に握られている物が深く関係する。
 それはナイフ。部屋の照明を受け、刃は白銀に輝いていた。

 ――いるんだよな、たまにこういう<脅迫に出る>奴。

 いつもなら情報の売買の際、こういった場合のために防犯具を用意していた。しかし今日は突然の来訪だったため何も手元に置いていない。
 内心で溜息を吐きつつ、公は時間稼ぎのために効果があるかも分らない言葉を口にした。

「良いか? 欲しい物があれば金出して買うだろ? 情報も商品も同じだ。何で俺が”商品”をタダでやんなきゃならない? 第一お前の兄ってだけじゃ何も分からないだろ」

 少女は少しの間悩み、渋々と公の首元からナイフを退ける。あっさりと引いた事に呆気なさを感じながらも、緊張の糸を断たぬよう、静かに少女の言葉を待つ。

「一月小町です」
「お前の名前か? 偽名じゃないだろうな」

 少女――小町は首を縦に動かすだけで肯定した。

(何なんだコイツ。恐喝に出ると思えば、いきなり大人しくなりやがって)

 今までにない人種の来訪に苛立ちを感じながら、ふて腐れた様に椅子の背に体重を預る。等の少女はナイフを服の袖へとしまっていた。

(一月小町ね……)

 公は皮裏でその少女の名前を復唱し、どこかで聞き覚えのあるその名詞を思い出そうとする。
 少しずつその情報を思い出すにつれ、後悔の波が次々と押し寄せてきた。だがそれはもう遅い。

(一月! あの一月小町か! 何て事だ、あんな面倒な奴が目の前にいる? ふざけんな。千年の奴はなんて言う事やら)


 


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