学生の場合


霧崎 紀喜……高校生(語り手)
熾藤 赤音……高校生


「うわ! ドラマの再放送録画してくるの忘れた!」

 跡部区の一角、俺は絶望を口にする。
今日は学校が午前中に終わり、折角遊びに来たと言うのに何と言う仕打ちだ。
隣にいる赤音は本当にどうでもよさそうな表情をしていた。

「はァ? 何だよソレ。俺とドラマどっちが大切なんだよ」
「そっちこそ何その、私と仕事どっちが大切なのよ、みたいなセリフ」

 自分でも訳の分からない言葉を放ちつつ、携帯電話で時間を確認する。駄目だ、完全にアウト。もう俺はドラマを見過ごすしかないのだろうか。いや、もしかしたらあのトリガーハッピーが代わりに録画してくれているかもしれない。この際それに賭けよう。

「つか再放送って事は昔もやってたんだろ? それは録画してなかったわけ?」
「してたよ。してた。けど遊馬と学吹が喧嘩した時に、学吹がキレてDVDの中身全部消してさー。しかもその後遊馬が……」
「ああ、もういいや」

 そう言って赤音は会話を打ち切る。何だよ、この後が重要なのに。

「まあ、こんな事で落ち込めるっつーのも平和な証拠だよな」

 赤音が隣でぼそりと呟いた。俺の方を向くことなく、歩道の一角ある花壇を眺めていた。彼はそこを見ながら、一体何年前のどんな光景を思い浮かべているのだろうか。

 それにしても、赤音が言う通りこんな平凡な理由で落胆できる程今日は平和だ。今日だけじゃない。何週間も何カ月も、少なくとも四年間ぐらいは平和過ぎる平和が続いている。
 こんなにも平和だからこそ、俺は赤音にある提案をした。

「ちょっと電化製品見にかね?」
「いきなりなんだよ」
「テレビのコーナー行けばドラマ見れるだろ」


 


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