途切れて解けて繋がって | ナノ

途切れて解けて繋がって


*知らないフリ、しようかもっと傷ついてよ離してよ、意地悪の続き







「…っは…やっぱり無理っスよ、ごめん……紫っち、ごめん……っ」

 絡み合った互いの唾液がぷつん、と途切れ、紫っちと熱っぽい視線が絡まり合う。
 久しぶりにこうも呼吸が苦しくなるまでの激しい口付けを受けた俺は、荒い呼吸を整えながら、やはり目の前をちらつくのが青峰っちでは無い事に悲しみを感じていた。
 いくら忘れようとしても駄目なんだ。例え青峰っちが俺を見ていなくても、俺にはもう青峰っちしか、見えていないから。
 俺に覆い被さる彼に謝罪の言葉を述べながら肩を押し返すと、彼は事の他簡単に退けてくれた。
 紫っちは拗ねる訳でも、怒る訳でもなく、ただ静かに俺を見下ろす。
 彼の肩に置いた両手が意味もなく震え、そのうち力なくソファーにその手が落ちていった。
 
「無理って……結構酷いよねー……黄瀬ちん」

 暫しの静寂を破ったのは、切なそうに眉を顰めた紫っち。
 その言葉に少しの棘と切なさの紛れる諦めが含まれていることを感じ取り、居た堪れなくなった。

「……ごめんっス」

 ただただ、謝るのが精一杯。
 俺を想い続けてくれていたのに、応えることの出来ない俺に出来る事なんて、他に無いではないか。 いくら青峰っちが他の女や男とよろしくしていたとしても、俺はそう簡単に割り切れない。

「俺、謝罪求めてるわけじゃないんだよねー……、これくらいならイイ……?」

 眉を顰めた表情をちらつかせる彼が俺の耳元にその口を寄せる。

――俺へのお駄賃

 そう、俺の耳元で囁いた紫の彼の声を俺は一生忘れることなどできないだろう。
 恋焦がれて、それでも届かなくて。甘くて切ない恋の声音。その中に、少しの悪戯心が垣間見れる。

――嗚呼、マズイ

 そう思ったときには既に遅く、彼の唇は俺の首筋に吸い付き、紅の熟れた綺麗な華を咲かせていた。






「なんでなんでなんで! アンタにそんなこと言われなきゃならないんスか!」

 バチンッ、と豪快な破裂音が夜の闇に消えていく。
 時は夜、場所は公園。
 ミ゛ーン、ミ゛ーンと苦しげに鳴く、彼の大好きな蝉の声を聞きながら、俺が今まで溜め込んできた感情を爆発させた瞬間だった。
 





 あの後、紫っちから開放された俺は“早く峰ちんとちゃんと話して仲直りしないとひねり潰すよ”と言った彼の言葉を無視して公園へやってきた。
 家に帰ったとしても青峰っちが帰っている保証はなかったし、何より彼が家に居たとしても合わせる顔がなかったから。
 だから、今夜は野宿覚悟外をふらついていた。
 青峰っちと二人で昔よく一緒に1on1したこの公園に足を運んでいたのは想定外だったけれど、もう日も暮れて他に行く宛てなど無かった俺は、この場所に一晩居座ることに決めたのだ。
 ぽつん、ぽつんと所々に遊具のある公園に人の影は無く、二十歳を過ぎている男がブランコに座ったところで誰も好奇の目で見てきたりはしなかった。
 ブランコに座り、ぎーっと錆びれて擦れた小さな音を聞きながら首筋に触れる。
 紫っちに付けられた痕がまだジュクジュクと熱を持っているかのような錯覚に陥り、やはり青峰っちに合わせる顔が無いと視線を下に落とした時の事。
 突然、どこからともなくガシャンという大きな音がして、驚いて顔を上げる。
 俺の視線の先には見慣れた青い髪の男がストバスのコートと公園を遮るフェンス越しに見え、一瞬の思考停止。
 居るはずのない青が、悔しそうに表情を歪めてフェンスに背を預ける。
 俺のこと、探してくれてたのかななんて淡い期待も持つ間も無く思ったのは“マズイ”と言う感情、ただそれだけだった。
 こんな痕付けて青峰っちになんて、会えない。
 俺はブランコから勢いよく立ち上がり脱兎の如く走り出す。
 が、夜風が思った以上に身体の芯まで冷やしていたようで、思うように足が動かない。
 そのうち、咄嗟に立ち上がったせいでギーッと悲鳴を上げたブランコの音を拾った青峰っちが“黄瀬! 待てよ、黄瀬ッ!”と声を張り上げているのを耳にする。
 一度だけ振り返れば必死に俺を追いかけてくる青峰っちの姿。
 嗚呼、これだけで幸せだ。 けれど、今追いつかれるわけにはいかない。
 俺は必死に走った。






「離さねぇ。離さねぇ、離せねぇ!」

 けれど敢え無く、俺は青峰っちに掴まった 
 離さない、離せないと俺を抱きとめる青峰っちに“今まで離してたのはあんたの癖に”なんて内心で悪態を付く。
 それでも彼の声音から必死さが伺え、まだ俺は彼に愛されていると思っていいのだろうかと少し嬉しくなった。
 浮気した理由も聞いてないのに、それだけで全てを許してしまいそうになるなんて、なんて現金なヤツだろう。
 けれど、それも束の間の出来事。 

「……なあ、なんだよ。コレ。 どういうことか、説明しろよ。黄瀬…… 」
 
 突如肩に置かれた浅黒い手にギリギリと力が入ったのが分かった。
 夜闇に紛れることなくきらりと光る瑠璃色の鋭い双眸は俺を睨みつけ、如何にも俺怒ってます、といった様子だ。
 彼の視線の先には鮮やかな紅の熟れた華。
 青峰っちの温もりに、言葉に包まれてなんとも言えない浮遊感を味わっていた俺は、はっとその密やかに存在を主張する紅の存在を思い出す。
 でも、それをアンタが言う? 今まで散々俺に見せつけてきてたアンタが。
 
――わけわかんねぇっス。 今まで見せびらかすだけ見せびらかして、放ったらかしにしてたのはそっちの癖に!!

「なんでなんでなんで! アンタにそんなこと言われなきゃならないんスか!」

 バチン、と盛大な破裂音が夜の公園に響き渡る。
 目の前の青は突如として訪れた頬の痛みに驚き、目を丸めていた。







――と、ここで漸く回想前に戻るわけである。

「今まで散々俺のこと放ったらかして! 俺が気付いてないと思ったんスか!?」

「毎日毎日、夜遅くに漸く帰ってきたかと思えば女物の甘い香水の匂いと長い茶色の髪の毛!! 首筋には俺が付けた覚えのないキスマーク!! 見せつけっスか!?」

「俺が男だから? 確かに俺には青峰っちが大好きな大きなおっぱいだってないし子どもを産める器官だって持ってないっス!! ……青峰っちが、女が良いって思うんなら、悲しいけど仕方ないかなって……青峰っちには白い歯むき出しにして幸せそうに笑ってて欲しいからって黙認してきたっスけど……もう限界っス!!」

 目の前で先ほどと変わらず驚いたような表情を浮かべながらこちらをみやる青峰っちを他所に、一度俺の口から漏れ出した本音は止まらずぼろぼろと溢れていく。
 嗚呼、みっともない。
 じわり、じわりと目頭が熱くなっていくのを感じながら、それでも俺の口は最後まで止まってくれなかった。
 言い終えて、荒んだ息を整えようとするが涙が邪魔をして上手くいかない。
 漏れる、嗚咽。
 目の前の青峰っちは俺が思いっきり叩いて薄らと手形の残る頬を未だに触りつつ、目の前の現状理解に努めようとしているようだ。
 

――もう、こんな俺じゃダメかな? ダメだよね、大の大男が泣いたってそりゃキモいだけっスもん。 青峰っちに飽きられちゃった? 何当たり前の事考えてるんだろう。 そもそも飽きてなかったら浮気なんてしないっスよね。 それでもどうしよう、俺まだ青峰っちのこと、こんなにも大好きなのに。


 ツキン、ツキンと細い針で刺されているような痛みが胸いっぱいに広がる。
 こぼれ落ちていくのは涙ばかりで、一番重要な言葉が欠落している文章は青峰っちに不快な思いをさせるだけだろう。
 そう考えて落ち込む自分がいる。
 このまま振られちゃったら俺生きていけないかも、なんてネガティブにも程があるって思ったでしょ? 
 それでも、俺にはこの人しかいないから。

「……それでも……俺、青峰っちの事――っ」

 好きだから。
 意を決して伝えようとしたその言葉は俺の唇に当たっているどこかカサつきつつも柔らかくて、温かい何かが、吸い込んでいってしまった。
 驚きで目を見張れば、目の前には浅黒い肌と青の髪。
 微かに汗の匂いが混じっているが、それでも安心する彼の匂い。
 待ち遠しかったその“存在”。
 青峰っちにキスされているのだと気付くまでに、そう時間は要らなかった。
 俺の頭部にはまるで魔法のようにバスケットボールを操っていた大きな手が置かれ、キスを拒むことを許さないと言った様子だ。
 決して深くまで探ろうとしない、重ねるだけのキス。
 今まで何千回何万回と繰り返してきたであろうこの行為が、今日この日以上に嬉しかったことはあっただろうか。
 いや、あったのかもしれないけれど、それは今の一瞬で新たに塗り替えられた。
 久しぶりに重なり合った唇は前と変わらずかさついているけれど、それが今は心地良い。
 ゆっくり、ゆっくりと角度を変え確かめるようなそんなキスを送ってきた唇は、名残惜しげに離れていく。
 そうして代わりにやってきたのは、俺の頭部に置いていた大きな手。
 それは俺の頬を滑り落ちる涙を掬い、優しく撫でた。
 
「すまねぇ、黄瀬……。 お前にそこまで思い詰めさせるつもりじゃなかったのに……度が過ぎた……」

 青峰っちの口から語られるこの浮気の真相。
 俺の仕事が増えるに連れて、彼の欲は溜まっていくばかりだったと言う。
 そんなの俺も同じだってーの。
 青峰っちが俺に触れてくるのを自重するようになってから、青峰っちに触って欲しくて仕方ない症候群発症したし、青峰っちを触りたい時も上手くかわされてしまうから代わりに青峰っちとツーショットのお気に入り写真の“青峰っち”をなぞっては、一人でシたりもした。
 一緒の家に恋人が居るのに、馬鹿みたいに升かいてその虚無感に押しつぶされそうになったことだってある。
 煙草を吸うようになった原因だって元はストレスかららしい。
 女絡みとかじゃなくてホッとしてる俺。
 最低だってわかってるんスけどね。
 そうして、ふらふらと街に出歩くようになった頃出会ったという一人の女性。
 キスマークをつけたのもその女性だと言う。
 同じような悩みを抱えていた彼女と不可抗力とは言え複数の行為に及んだと言う話を聞いて、俺は心が押しつぶされそうだった。

 馬鹿峰、阿呆峰、クソ峰、ドジ峰。
 いくら言っても言い足りないし、俺の心の傷は癒えること無く深々と痕を残している。
 だけど。

「黄瀬……、いや、涼太……好きだ。 好きなんてもんじゃねぇんだ、愛してる。 こんな事しちまった俺の言葉なんか信じられねぇかもしれねぇけど、俺にはお前だけなんだ。 だから……離れて、いくなよ」

 仕方ないから許してあげる。
 現金なヤツなんて言われなくても知ってる。
 でもね、この人は嘘のつけない人だから、この人の言う“愛してる”が本物だって理解しちゃったんだ。
 俺以外にあんなことされてまであんたを一途に想ってられる人、他にいないでしょ?

「……馬鹿大輝。 離れたくても離れられないっスよ……」

 月が見守る星降る夜、俺達は誰もいない公園でただただ、お互いを求めるように抱きしめ合った。






「途切れて解けて繋がって」
(( いくら裏切られても君しかいらない、欲しくない ))







青峰さん浮気シリーズ完結!
短編だった筈が調子に乗ってここまで続いてしまいました(笑)

一途な黄瀬くんが書きたくて結局は青峰の元に戻ったけど、そのままむっくんのところに居ても良かったんじゃないか、とも思う今日この頃。
むっくんあいらびゅーっ(>_<)!

この後、黄瀬くんは青峰にキスマークを問い詰められ白状しますが、青峰はそれを怒ることなく「これも俺のもんにしてやる」とか言い出してむっくんのつけた痕の上に上書きします←
浮気していた手前強くでることは出来ないけれど独占欲が強い青峰は出来る限りで太刀打ち。
その後二人でにゃんにゃんでもすれば尚良し((ry


続きをリクエストして下さった皆様、ありがとうございました

最後に、青黄末長く爆発しろ\(^-^)/!





[ back ]


 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -