宝物 | ナノ

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「私と、パートナーになってくれまいか」
「………………は?」

パートナー? え、でも、一応僕と御剣は親友でライバルで相棒だよな? そこにパートナーが加わるのか? そもそもパートナーって相棒って意味もあるよな? え、じゃ今のパートナーってどういう意味なんだ???、と脳内でぐるぐる考えている成歩堂に、御剣はその容貌をうっすらと朱に染めながら愛の言葉を紡ぎ始めた。

「私は、キミをキミたらしめるすべての要素に恋をしている。この髪も、目も、鼻も、唇も、輪郭も、手足も、気質も、心も、なにもかもだ。キミを想うあまり、よこしまな想いを抱いた回数はとうに数え切れぬ。……私は、キミと私的な意味でもパートナーになりたいと思っている」
「……え、は、え……???!!」

やっぱりパートナーってそっちの意味かよ!! そりゃ御剣のことキライじゃないけど恋愛対象には見れないっていうか、などとツッコミを入れたかった成歩堂。しかしあまりの急な出来事に上手く言葉にすることが出来なかった。
目を白黒させている成歩堂に、御剣は彼の両肩をがっしりと掴み、ずいと迫る。

「成歩堂……ッ!」

熱っぽい声で名前を呼びながら顔を寄せる御剣。あ、まつげ長い。と思えたのも一瞬のことで、彼と唇が触れ合いそうになった瞬間、成歩堂は思わず御剣の思い切り殴りつけてしまった。

「ぐぬぉっ!!」

火事場の馬鹿力なのか、自身よりも筋肉量のある御剣を吹っ飛ばした成歩堂は、御剣の着地点であったがために無惨な姿をさらすことになったテーブル上の物達に心中で詫びながら、ソファから飛び上がった。
テーブルとソファの隙間に転がり悶絶している御剣を見ることも出来ず、成歩堂は鞄をひっ掴み玄関先に最速力で走り去ると、彼に追いつかれないうちに何とか荷物を確保し玄関から転がるように脱出した。



はぁ……、と事の発端を思い出し、事務所の机で盛大にため息をつく成歩堂。
御剣はあの日から、毎朝7時のモーニングコールに始まり、暇があれば2、3時間おきにメールを送信し、成歩堂の終業後を見計らってまた電話をかけ、電話をする暇がなければそれがメールに置き換わり、夜10時頃のグッドナイトコールで、ようやく一日の連絡攻勢を終える。
その他にもここ数日は絶対に一日数回、やれ仕事の空き時間が出来ただの、やれこのあたりに用事があっただのと理由をつけ成歩堂の元を訪れる。
それらのすべてが、交際を通り越して結婚を迫る言葉と共にだ。
気障な言葉で愛していると迫る御剣に、成歩堂は数日で食傷気味に陥っていた。
あの家飲みの日以降、御剣は再び出張に出てしまい顔をあわせる機会はなく、連絡攻勢も無視をすればなんとかやり過ごせた。が、出張の合間、つかの間の帰国期間である現在、御剣は帰国直後に巻き込まれた一連の事件を解決したとほぼ同時に成歩堂の元を訪れるようになったのである。
今日はまだ訪れていない。ということはこれから先の時間、赴く可能性がほぼ100%ということだ。
先日までは仕事が忙しいという言い訳が使えた。事実、成歩堂は現在、ある人物の弁護団の一員に名を連ねているが、今日は弁護団の長に「事務所の庶務の時間に充てるとよいのぢゃ」と言われ、「忙しい」「他の弁護士事務所の人に迷惑かけるな」という言葉は使えないに等しい。
これから訪れるのは確実な御剣をどうやってあしらうか、それを考えるだけで憂鬱になる。成歩堂は再び深いため息をつく。
そこに、家元修行を始めるための準備期間の間、事務所に泊まり込んでいる真宵がお茶を運んできた。

「どうしたのなるほどくん。またみつるぎ検事のもーにんぐこーるがアツアツだったの?」

ことり、と置かれた湯飲みからはまさしくアツアツの湯気が立ちのぼっている。それを横目にした成歩堂は、組んだ両手の上に額を乗せて顔を伏せた。
はぁぁ……、というため息の後、成歩堂は弱々しく呟く。

「……訊かないでくれ」

覇気のない成歩堂のその様子に、真宵は両手を腰に当てて呆れたように言う。

「まったく……。なるほどくんだってみつるぎ検事のことキライじゃないんでしょ? だったらいいじゃない、両想いなんだから」

真宵のその言葉に、成歩堂はちらとそちらの方を見やり、また顔を伏せた。

「僕がそうとは限らないだろ。御剣は恋愛感情でも僕はただの友情かもしれないんだし」
「それは、この真宵サマの目にかけてないね!」
「えぇー……」

力強く言い切った真宵の言葉に、とうとう成歩堂は上半身ごと所長机に突っ伏した。
その様子を見下ろしながら、真宵は淀みなく言葉を紡ぎ始める。

「まわりから見てればねえ、前から何でなるほどくんとみつるぎ検事、くっつかないんだろうって不思議なくらいなんだよ。男のヒト同士ってことを差し引いてもさ」
「……わかりやすいの? 僕ら」
「とっても」

成歩堂の疑問に、真宵はいっそ心強さすら感じるまでに大きく頷く。

「みつるぎ検事は超鈍感なヒトでも気づくくらいのなるほどくんラブオーラ振りまきまくってるけど、なるほどくんもみつるぎ検事がいるときといないときじゃ大分雰囲気違うんだよ? いつもよりも恋する乙女度割り増しってカンジで」

真宵の言葉に、成歩堂は最初は疑問符を浮かべていたが徐々に紅潮し始め、終わりの方には両手で顔を覆っていた。が、耳まで真っ赤に染まっている。
蚊の鳴くような声で、成歩堂は「……気づかなかった……」と呟く。
真宵はその様子をからからと笑いながら、からかうように言った。

「無意識ってコワイねー」

ぅー、と泣き出しそうな声で唸る成歩堂に、真宵はふと優しい目になった。穏やかに、深みを増した声音で、成歩堂を諭すように言う。

「……なるほどくん。受け入れるにしろ受け入れないにしろ、覚悟は決めなよ。いつまでも今の状態が続くってワケじゃないんだし」
「……わかってるけどさ……」

顔を覆ったまま、成歩堂はぼそぼそと言い訳を始めた。赤かった顔色をさらに真っ赤にして。






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