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 ★プロポーズ・ラッシュ 1

プロポーズ・ラッシュ


1.


よく晴れたある朝。ここ一ヶ月程毎日、狙いすましたように午前七時にかかってくる電話に、軽快な三和音の着信音を鳴らす携帯電話の主は眠気をこらえて通話ボタンを押す。
スピーカーを耳に当てると、通話を待ちかまえていた相手の低く通る声が流れ始めた。

『おはよう成歩堂。よく眠れたかね』
「ああ……」

毎日毎日目覚まし代わりにさせてもらっている、などとは言えず、携帯の主――成歩堂はあくびをこらえるように返事を返す。
それを知ってか知らずか、通話相手はいわゆる「出来る男」全開のオーラを声に上乗せしてきた。

『今朝は少々冷え込んだ故、私はキミが寝冷えなどしていないかどうかとても心配だ。そういうわけで、毎日私と褥を共』
「あ、あーあーあー、朝ご飯食うから!じゃ!!」

「にしようではないか」などと続きそうな相手の声を無理矢理遮り、成歩堂は乱暴に通話を切った。
横になっている姿勢から体を起こし、頭を抱え成歩堂は重いため息をつく。


「どうしてこうなった……」



現在進行形で成歩堂にアプローチをかけている男は、彼の幼なじみにして職務上のライバルの御剣怜侍だ。
彼はキャリアアップのために海外にて研修中であったが、もう一人の幼なじみのヘルプに応える形で一時帰国、成歩堂や御剣、まわりの人物達を巻き込んだ大きな事件を共に解決に導いた。
その法廷が終わった翌晩、成歩堂は御剣に乞われる形で御剣の自宅に赴いた。表向きは、「たまには二人で飲みたい」というものだった。
これまでは彼と飲み交わすときは必ず――大衆居酒屋から高級バーまでクラスは様々であったが――店であったので、成歩堂は感慨深いものを感じつつ御剣の誘いに応じた。
御剣の自宅は高級マンションだ。数年前までの彼を表すかのように無駄な物が一切ないリビングに通された成歩堂は、ハイソサエティな空気が流れる室内の雰囲気に飲まれ、借りてきた猫のように恐縮してしまった。

「適当にかけてくれたまえ」
「ああ」

と答えたはいいものの、成歩堂はどうしていいか見当がつかず、結局目についたソファに腰掛けた。
酒宴の用意をする、とキッチンに消えた御剣を待つ間、成歩堂は室内を見渡す。自宅室内も執務室と同じように中性貴族のような部屋なのかと思っていたが、意外にも白やアイボリー系のインテリアで統一されており成歩堂は思わず感嘆の声を漏らした。

「へー……」
「どうしたのだ?」

戻ってきた御剣の手には、ブルスケッタ、クラッカーの乗ったプレート、スモークサーモンのマリネが入ったガラスサラダボウルがあった。それらを置く様子を見ながら、成歩堂は苦笑しながら言葉を返す。

「いや、てっきり家の中も執務室と同じように派手な感じなのかと思ってたから、意外に大人しいなぁ、って思ってさ」
「うム……、執務室のレイアウトは私が考えたが、自宅はどうでもいいと思っていたからな……。デザイナーズマンションで家具も備え付けのものをそのまま使っているにすぎないのだ」
「へ、へぇ……」

流石に金持ちは違うなぁ、などと考えている間に、目の前にはミックスナッツやチーズ、テーブル用クーラーに入れられた赤ワインと缶ビールが並ぶ。
最後によく冷えたグラスが運ばれれば、家飲みのスタートだ。
しばらくは和やかに、酒やつまみの味の感想、ここ最近の互いの近況など、取り留めの無い話に興じていた。だが、不意に成歩堂は、向かい側のソファに座っていたはずの御剣が隣に座り、じっと自分を見ていることに気づいた。
真剣な面差しでじっと見つめられ、成歩堂は思わず息を飲んでしまう。
ようやくしてから絞り出すように、目の前の相手に訊ねる。

「……ど、どうしたんだ?」
「……成歩堂」

静かに名を呼ぶ御剣。す……、と恭しく成歩堂の手を両手で包むように救いとると、一旦決意するように唇を噛みしめてから静かに、しかしはっきりと、成歩堂の目を見つめながら告げた。






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