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 ☆スノードームの住人



□スノードームの住人


『僕さ、雪が降るのは好きだけど外に出るのは駄目なんだよね。寒いのニガテでさ』

去年の冬に呟いた成歩堂のセリフを、忘れているわけない。

成歩堂の事だから、自分が言ったことなど忘れていることだろう。

自分の腕の中で眠る成歩堂の寝息を聞きながら、御剣怜侍は微笑んだ。

彼の無防備な寝顔は愛しくてたまらない。

最初は2人で並んで寝ていたはずなのに、朝方起きると成歩堂が私にぴったりくっついていた。

寒いのだろう、丸まる様にして眠っている。

特徴のある眉の端をつつくと、不快だったようで、顔を動かした。

それでも離れるはおろか、ますます近づいてくる成歩堂。
こんなに可愛い生物、ここにしかいない。そう断言できる。

尖った頭を撫でて、寒そうな首筋に毛布を掛けてやり。外を見る。

微かに開くカーテンの隙間から見える外の景色は、少し白っぽく見える。
冷え込んだから霜でも降りたのだろうか。

以前ならば、雪のニュースでさえ忌々しいと思っていた冬だったのだが、今は違う。

大切と呼べる人ができて、その人が腕の中にいる。それだけで十分幸福だった。

悩み続けた15年を埋めてしまうほどに、彼といる時間は実に幸福だった。

「・・うぅ」

くぐもった声が聞こえて、私は彼の髪を撫でるのをやめた。
眠そうになる歩堂がそっと目を開ける。
「・・おはよ」と小さくすると同時に、身震いをした。

「・・今日は冷えるな」
「・・そうみたいだね。・・って御剣ゴメン!!僕に毛布くれてたんだ!!」

布団の上に乗っている毛布は成歩堂の上に多くかかっている。
私は別に寒さを気にしていなかったから問題ないというのに、
彼は心配をしてくれているようだ。

「君の体が温かかったから不要だったのだ」

そう言ってみると、成歩堂が頬を・・いや、耳まで真っ赤に染める。

何かぼそりと呟いたようだが、その声は生憎聞きとることができなかった。

どうしたのだ?と聞くと「なんでもない!」と顔を振って布団の中に顔を埋めてしまった。

「成歩堂」
「う・・わっ」

視界が真っ暗の中。多分目の前には成歩堂の顔がある。息遣いが伝わる。
そっと、指先で触れた場所は顎のようで、そこから顔のラインをなぞっていく。

成歩堂の体がピクリと震えた。両手で支えこむように頬に触れて、唇の場所を特定するとそこに唇を重ねる。

「・・・ん!?んん・・」

驚いたような声だったが、その唇は私に主導権を渡し、ベッドの中にいたからか、
それともいつものように体温が高いからか、温かい掌は私の腕をそっと握る。

舌を絡めるとその体は震え、掴む指の力が強くなる。唇を離すと即座に腕で唇を拭う。

布団の中で誰に見られているという訳でもないのに。

「・・・はっ・・・朝からなんだよもう・・!」
「どうだ、温かくなったろう?」

君はすぐに照れると顔まで真っ赤にするから。そう笑うと、くぐもった声で「御剣の馬鹿!!」と言っているが
本気ではないことは声で分かる。

からかい過ぎたのは十分承知の事。

お詫びに寒がりな恋人の為にストーブを点けに行こう。
そうベッドを抜け出そうと立った時に、ふと引かれる腕。

「どこ行くの御剣」

顔をそっとのぞかせた成歩堂は寝起きだからか、
先程のキスでまだ顔が火照っているのか、随分と上目遣いだ。
ベッドに座り直し、腕を引いていた指にそっと口づけをする。

「ストーブを点けに行くだけだ。じゃないといつまでも外に出てこないだろう、君は」
「・・寒いのにゴメン」
「何を謝るのだ」

私の家なのだから、動くべくは自分だ。

成歩堂の家に泊まる際は彼の方が動いてくれるのだから。
外に出ていた腕を再び布団に入れてやり、
私はストーブを点けるべく立ちあがった。

ストーブに火をつけると、ココアでも淹れようと、湯を沸かした。

ストーブが熱を発し始めていることを確認して、未だに丸まっているベッドへと戻る。
布団の上から丸まっている成歩堂を抱き締めた。
「重い」
「寒い」

抱き締めている布団がもぞもぞと動いた。

やっとの事顔を出した彼はストーブが点いていることを確認して起き上がる動作を見せる。

その動きを邪魔しないように抱き締める力を緩くした。

コポコポと音をたてはじめたポットの音に、どちらともなくベッドから動こうとする。

寒いと漏らす成歩堂は風邪のひき始めなのかもしれない。
今日が格段と冷え切っていることもあるのだが。

「毛布も持っていくといい」
「いいの?ありがとう」

毛布を羽織ったままストーブの前へと移動する成歩堂。

彼がストーブの前に座るのを確認して、マグカップにお湯を注いだ。
ココアの入ったカップを成歩堂に差し出し、隣に座る。

「やっぱり冬はストーブだよね」
「うム」

ココアを飲みながら、ストーブの火に照らされる。
暖炉は幼いころの思い出がよみがえるから嫌いだった。
それが今はどうだ。彼となら、大丈夫な気がした。

目線が合うと二人で笑いあった。
「そうだ、君に渡したいものがあったのだ」
「え?僕に?」

1つの箱を取り、私は成歩堂の隣に座った。

それを差し出すと、開けていいのか?と言う風に首をかしげる。
頷くと、彼はさっそく箱を開けた。

「スノードームだ」
「これならいつでも雪が見れるだろう?」

寒がりな私達にぴったりな、スノードーム。それを眺めて成歩堂は目を細めた。

「今日、僕誕生日じゃないのになんで?」
「恋人にプレゼントをするのに理由がいるのか?」
「・・・そっか。ありがとう」

スノードームの中には小さな家が1つ。

二つの影が中に見える。それが今の私達のようにもみえる。と笑いあった。

その日は何年振りかに雪が降った。
アパートの1室で二人。スノードームの住人のように外を眺めた。


fin






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