「永遠てあらへんのかな」


丁度、★さんが昼飯を食い終えた時やった。
箸をしまうなりポツリと発した突然の言葉に、俺は眉を寄せ★さんを凝視する。
暑さのせいか、昼休みの屋上には俺と★さんの二人だけやった。
せっかく二人だけやのに、今日の★さんはいつもより口数が少ない。


「…は?」


頬を撫でる心地よい風が、俺の疑問の声を運ぶ。
いきなり何言いだすんや、この人は。
弁当箱を片付けた後、★さんは横目で俺を見やりながら、給水タンクに背中を預けはった。


「…光と、ずっと一緒におりたいんやんか」
「…はぁ」
「高校、大学行って、成人しても一緒におれるんかな、て」


「昨日考えとった」て、★さんは付け加えた。
…俺の推測やけど、昨日やっとった恋愛ドラマ観たからちゃうんか。いきなりそないな話するん。
…まぁ、どうでもええか。


「…なんでそう考えるんです?」


言いながら、俺は★さんの顔を窺うように前屈みになった。
★さんは、俺の質問に数回瞬きを繰り返した末、苦笑混じりに答えた。


「ずっと一緒て難しない?」


受験やとか、進路やとか、★さんは三年やから色々言われとるんやろう。
前より会える時間も少なくなった。
★さんは塾、俺は部活。
学年ちゃうし家は遠いし、唯一、一緒に居れるんは昼休み位や。
もっと一緒におりたいのに。


「…難しかったらなんなんスか」


意識してへんのに低い声が出てしもた。
★さんの性格は分かっとるつもりや。何年見てきたと思ってんねん。

俺の事をホンマに好きでおってくれてはる。
好きやから、なかなか会えへんで寂しい。
寂しさは不安に繋がってまう。それは分かる。
せやけど、やからって確実な「大丈夫」を★さんに言う事は出来ひん。


「…いや、ちゃう。すまんな、いきなり」


くしゃり、と★さんが自分の髪の毛を掴んだ。
下がった睫毛が震えとる。
ホンマにアホやな、★さんは。


「俺は、★さんとずっと一緒におるつもりです」


素直に告げる事に抵抗を感じとる場合とちゃう。
俺は★さんが好きや。
学年ちゃうし、男やけど、それでも★さんが好きなんや。


「ずっとて、難しいんは分かります。せやけど、俺は一緒におりたい」
「…俺も」


唇が小さく動いた。
「おりたい」て、確かに★さんは言わはった。


「俺が★さんを好きや言うたんスよ。離れる訳あらへんやないですか」


難しい事を言うんはやめにした。
自分で言うとって訳分からへんし。
男女でもどうなるか分からへんのに、まして男同士で。
まぁ、せやからなんやっちゅう話やけど。

俺は★さんが好きで、★さんは俺を好き。
それはずっと変わらへんのやろ。


「…光、次の休みにデートしよか」
「最初からそのつもりでしたけど」


きっぱり言い切ってやると、★さんは目を丸くした後、声に出して笑いはった。
俺の好きな笑顔やった。


「…ホンマしょーもないわ、俺」
「今更ですやろ」
「…せやな」


憎まれ口にも可笑しそうに笑う★さんにつられて俺も笑った。

今は、ただ好き同士やったらええ。
何かが変わっても、俺と★さんの気持ちが変わらへんかったら大丈夫やろ。

せやから、どうか、


「★さん、好き」


終わらない恋を。