「大丈夫ですか?」
 
心配そうにかけられた言葉に小さな声で、申し訳ないと謝罪するのが精一杯だった。大丈夫だ心配かけてすまないね!と言えない自分が憎い。そもそもなぜこのような状態になったのかというと話せば長いのだが、大学の付き合いで飲み会に誘われ断りきれず仕方なく参加し友達などというものがあまり居なかった俺は居心地の悪さからか、知らぬうちにおよそありえない量の酒を摂取してしまっていたようで、ぐでんぐでんに潰れた。そこに数少ない友人(…こと恋人)の比呂士くんが呼び出されたという、ひどく情けない理由からなのだ。

身体の熱さのせいで薄く涙のはっている瞳にぼやけて見える派手でけばけばしいネオンが眩しい。そういえば忘れていたがここはまだ繁華街であった。火照った頬にひやりとしたものがあたる。比呂士くんの手、だ。酒のせいで正常な思考力を失っている俺はその冷たさを求めて頬を擦り寄せる。比呂士くんの身体が強張った気がした。

「…まったく……本当に仕方のないひとですね」

比呂士くんは座り込んだ俺の膝下と脇下に腕を差し込むとそのまま軽々と俺を抱き上げ歩きだした。所謂お姫様抱っこをされているのだと気がつき、鈍った頭でも流石にこれは恥ずかしいと元から赤かった顔が更に赤くなる。

「ひ、ひ、ひろしくん!だだ大丈夫だ!歩ける!一人で歩けるから降ろしてくれ!」
「いけません。車まで我慢してください」

ぴしゃっと言い放たれてしまいそれ以上抵抗する余地は与えられず、すれ違う人々がこちらを凝視するたび恥ずかしくて死にそうになる。眩しいネオンの明かりと人々の視線から少しでも逃れようと比呂士くんの胸元に顔を押し付けると、くすくすと彼が笑う声。頭の中は早く車につけばいいのにという思いとしばらく酒は飲まないという決心でいっぱいであった。


極彩色の夜を歩く