例えば好きな奴がいたとする。
普通、その相手の喜ぶ事なら何でもしてやりたいと思うもんやろ?
俺かてそうや。好きな奴には笑っとってほしいからなぁ。
でもな、



「似合っとるばい」

『全っ然嬉しくないわ』

「えー」



どこの世界にウサ耳のカチューシャ付けて喜ぶ男がおるんや。
おったとしたら変態かただのアホや。
残念ながら俺はその両者でない、と思う。そうでありたい。



「むぞらしか〜」

『アホか〜』

「あっ、外した」

『こんなんいつまでも付けてられへんわ』

「えー」

『ほなお前が付けろや』



おぉ、案外似合う。
あ、たんぽぽ。これも髪に挿したろ。お、やっぱ似合うやん。
ただ千歳は癖っ毛やから引っかかったわ。



「…俺が付けてもいっちょん似合わんたい」

『いやいやごっつ似合っとる』

「複雑ばい」

『素直に喜べ』



あ、そろそろ戻らんとまた白石にどやされてまうわ。



「どこ行くと?」

『教室。自分もサボらんと早よ戻り』

「いかん」

『ちょっ、急に飛び付くなや!危ないやろ!』

「★もサボりなっせ」

『何でやねん』

「寂しい」



中三の男が寂しいって……。
ほんまにウサギかっちゅうねん。



『千歳ぇー、俺次英語でアメリカンジョークのテストあんねんけどー』

「サボりなっせ。ついでに昼もここで食えばよかよ」

『えー』

「…★は俺と一緒におりたくなかと?」

『いやおりたいねんけど、』

「なら問題なかね」



………何や丸め込まれた。
ま、ええか。ん?でも考えたジョークが無駄になってまう。せっかくおとんと考えたんに。
…ま、ええわ。すまんおとん。



「ん〜、★はお天道さんみたいにあったかいっちゃね」

『千歳はウサギみたいに寂しがりやなぁ』

「んじゃ★がおってくれんと寒いし寂しくて死んじまうばい」

『ほな千歳が死んように一生傍におらんとアカンな』

「やったぁ」



……ん?でもお天道さんやろ?
お天道さんっちゅうことは……、



『……やっぱ俺、お天道さん嫌や』

「!な、して…?」

『お天道さんは空におらなアカンやん?そんなん千歳の傍におられへんやん』

「あー…」

『だったら俺、これんなるわ』



あ、取るときもやっぱ引っかかりよった。



「…たんぽぽ?」

『せや。たんぽぽって小さいお天道さんなんやで?これやったらずーっと千歳だけの傍に咲いてられる。最高やん』

「!」

『あ、でも俺そしたら動けへんか』

「俺がどこでも連れて行っちゃるばい!」

『ほんまに?』

「うん。だけん、★も勝手に枯れてどっか飛んで行ったらいかんたい」

『おん。なんぼでも一緒におったるっちゅーねん』

「約束ばい」

『ん、約束や』



あーあ、これで俺は一生千歳のたんぽぽやなぁ。
ま、俺もこんなええウサギから離れる気なんざあらへんけどな。






ちっぽけな僕が
君にする幸せの約束









『あ、鞄教室』

「一緒に行くばい」

『いや意味ないやん』



end