ACE | ナノ

▽ ありがとう



10月にしてはなかなかの暑さのなか、文化祭という行事を満喫している生徒達の邪魔にならないように、廊下の隅で立っているとふとある風景が視界の隅に写りこんだ。

楽しそうの手を繋いでいるカップル。

彼らを横目に炭酸の抜けかけたジュースを飲み干すと喉が少し潤った。スマホの画面をスライドし、時間を確かめると店番を交代する時間が近づいていた。手に持っていた缶をゴミ箱に捨て、楽しそうにしているカップルをもう一度横目にため息をこぼしその場を立ち去る。

ポロンと言う音に反応しスマホを見るが、そこにはアプリゲームのお知らせのみ。乱暴にカーディガンのポケットのにスマホを入れ教室へ足を進める。勝手な八つ当たりを受けたポケットは少し伸びたが気にせず歩く。もう少しで自分の教室という時に会いたかったような、会いたくなかったような人物と遭遇した。

少し癖が黒髪の彼。そう私の彼氏でもあるエースだ。
エースと付き合ってもう1年近くたつ。普段は喧嘩なんてした事なかったのに、ひょんな事から言い合いになりお互い止める事もできなく意地の張り合いでもう1週間、口もきいていなければ連絡も取っていない。

向こうも私と同じ気持ちなのか、目に見えて嫌そうな顔をしている。
この空気どうするべきなのか考えていると、この場の空気に似合わない音楽が鳴り響く。まあ助かったかな、そう思いつつスマホの画面を見ると友人の名前。

「もしもし…」
「ちょっと***ー?もう少しで店番変わる時間なの分かってんの??」
「大丈夫だよ。今丁度教室戻る所」
「分かってるならいいよー!じゃ、待ってるからねぇ」

友人との電話を終え、その場を立ち去ろうとエースの横を少し駆け足で通り過ぎようとするといきなり腕を掴まれた。
勿論そんな事をするのはエースしか居ない訳でどう反応していいのか分からず、漸く出た言葉は「何?」と可愛くない言葉。

「……まだ怒ってんのかよ」
「別に…てか私急いでるんだけど…」

こんな事しか言えない自分に嫌気がさす。
流石のエースも私の言葉に嫌気がさしたのか、「あっそ」と言い残し私の前を横切る。微かに香るエースの香水の香りが、寂しさを感じさせる。

こんなはずじゃない。本当はエースと仲直りしたい。
なのに素直になれない自分にエースはもう嫌になったかも知れない。

情けなくも涙で視界が滲むのを荒く手で拭き取り振り返ると、少しムスッとした表情のエースが目の前に立っていた。

「エース…」

恐る恐る声をかけるとエースの手が私の顔に伸びてくる。
思わず目を閉じ肩に力を入れ身構えると、エースの温かい手が私の前髪をかきあげたかと思うとチュッと軽い音が鳴った。
力いっぱい閉じていたはずの目が簡単に開き、エースを見るといつもよく見る意地悪そうな笑顔をしながら「ばーか」と言われた。

そんなエースを見て笑顔になる。
どちらが差し出した訳でもなく、自然に繋がれた手から感じるエースの手の温もりを大切に思いながら少し、遠回りをして教室に戻った。


- ありがとう -


エース、
どしたー?
………ごめんね
俺のクラスのたこ焼き買ってくれたら許してやってもいいぜ?
ふふ、喜んで買わさせて頂きます



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