ACE | ナノ

▽ 感情と共に隠す



眩しい朝日と共に目を覚まし、重たい体を起こす。個人部屋にある小さな洗面台で軽く顔を洗い、頬を軽く叩き気合を入れる。洗面台の横に置かれたボトルの蓋を開け、丁寧にその液体を顔全体に塗っていく。塗り上げたうえにまた、丁寧に粉を塗り部屋を出る。


これが私の朝のひと仕事だ。ひと仕事といっても10分程度だが、私にはこの行為をするのとしないとでのモチベーションが違う。


「……その無言で訴えるのやめてくれない?」
「それは悪かったな、」


食堂に入るなり、何か言いたげな目で私を見てくるマルコ。先程並んでいた料理からよそってきた料理が乗っているトレイを置き、そんなマルコの横に腰をおろす。さっき入れたばっかのコーヒーを一口、口に含むとあの苦味が喉を潤すにつれ目がハッキリと覚めていく。


「毎朝毎朝、めんどくねぇか?その面作んのわ」
「めんどくも何も、パパッと塗るだけだからそうもない。」
「そりゃそうかい…。大体そんな事しなくてもいいだろい。海賊なんだ、汗やら海水やらですぐ落ちる事ねぇか?」
「ウォータープルーフだから大丈夫」


私の言葉に呆れ顔のマルコを無視して食事を進めていく。すると食堂の扉が勢いよく開き賑やかな声が聞こえてくる。その声だけで誰かなんて直ぐにわかる。だが何もない顔でコーヒーを飲み干していると、私とマルコの間から逞しい腕が伸び、私がよそってきた料理が奪われていく。


「うっす!!おめぇ等朝からダルそうな顔してんな!!」
「………あんたは朝からテンション高すぎるのよ」
「全くだよい」


ダルそうに話す私等に関係なしにケラケラ笑いながら隣に座ってくるエース。体温が感じるそのスレスレの距離にすらドキドキしている自分に苦笑いしつつも、残りの食事を進めていく。すると横から嫌な視線を感じる。チラッと見ると、エースが眉間に皺を寄せてこちらを見ている。


「……なに?」
「***…お前また化粧してんな?」
「なによ、女の嗜みでしょ?文句でもある訳?」
「べっつにー。」


そう言いながらも不満げのある様子のエースを横目に料理を平らげていく。さっきまでエースの体温を感じドキドキしていた筈の気持ちも冷め、そそくさと立ち去ろうとするがある一言で足が止まる。


「スッピンの***のが俺は好きだけどな」
「………嘘くさ……」


エースに聞こえるか聞こえないか位の声で発した言葉を残し、食堂を後にする。
あいつ、自分が言った言葉すっかり忘れてるな……。苛々する感情をおさえようと深呼吸をし、甲板へと向かう。さっきまで晴天だった空が暗くポツポツと雨が顔に当たりだす。


あいつといい、天気といい、気分屋ってのは困るのよ本当。振り回されるこっちの身にもなってよ。
私の素顔はエースと同じように頬にそばかすがある。昔は気にもしていなかったし、化粧なんて全くしていなかった。海賊なんだ、そんなのいちいち気にしていたらキリがない。そう思っていたのにある男が、この海賊団に入ってきたある男によってそんな考えが変わった。


そうエースだ。眩しい逆光を背景に、これまた眩しい笑顔を向けてきたこの男に年甲斐もなく一目惚れをしてしまった。最初は野良犬みたいに他人を近づけまいといった雰囲気から一変、人懐こい笑顔に一発だった。
だがその人懐こい笑顔で言われた一言が急に気になりだし化粧をしないと不安になるようになった。


「***のそばかすもスゲェな」


エースからしたら対した事のない言葉だっただろうが、私には一発で気になる要素へとかわった。そんなに凄いのか…そう思い出したら今のように化粧をしないとエースの前に居る事が怖くなっていた。惚れた男にたった一言言われただけで、こんなに気にするとは思っていなかった。
いきなり化粧をし出した私に不思議がるクルー達もいたし、マルコ辺りには気持ちはバレていると思う。だけど、何もなかったように過ごす私にマルコは何も言ってこない。そっちの方が有難い。だが、エースだけはしつこくあのように言葉をかけてくる。


人の気も知らないで……。いや、知る訳ないか。言ってないんだし。
憂鬱な気分に気づきもしないであろう呑気なあの声が後ろから聞こえる。


「これサッチが***と食えってよ!」
「ありがと。」


差し出されたアイスをエースと一緒に食べているとフと目があった。するとニコッと歯を出して笑うエースに釣られて口角が少しあがる。この笑顔に惚れた時点で負けなんだろうな…。




- 感情と共に隠す -



化粧をする度にエースに対しての気持ちも隠しているつもりだけど、エースの一言一言で直ぐに崩れてしまう。
エースに気づかれないように化粧を直す度に自分に暗示をかける。感情を出さないようにしろと。


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