▽ もうどうにでもなれ
リクエスト : 君を困らせないから続編
「出ていくって本当なの…?」
待ちに待った……とまでは言えないが、やっとこの日が来た。我慢し続けたが明日、俺は卒業する。
だが決めていたはずなのに、目の前の悲しそうな…少し怒りも入った顔でこちらを見ている***を見ると、俺の決意は間違っていたのかと思ってしまう。
荷造りも終わりが見えてきて休憩をしようとした時、俺の部屋のドアが勢いよく開かれた。どうせルフィが遊べとか言いに来たんだろうと思い、ノックしろと注意しようと振り返ると半泣きの***が立っていた。
「ルフィから聞いた…本当なの?」
「おう…。俺も働くしな。」
「別にここから通えばいいじゃん…」
泣くのを我慢しているのだろう。声が少し震えている。いつもなら「泣くな」と言って***を撫でるが、もうそれは出来ない。今ここでそれをすれば決意が鈍りそうだからだ。
「前からしてみたかったんだよ、一人暮らしってやつ。」
なるべく***の方を見ず答え、休憩を始めたばかりだったがまた荷造りを始める。忙しいフリをし、ここから***が居なくなる事を望んで。だが俺の望みも虚しく***は出ていく気配もなく、それどころか俺に駆け寄ってくる。俺の腕にしがみつく手の力が強い。
「そんな事一度も言ってなかったじゃん!!」
真っ直ぐこちらを見る***を抱きしめたいと思った。出かけた手を分からないようにしまい、***を突き放す。
「実家暮らしだと、なかなか彼女も連れ込めねぇんだよ。お前とルフィがぜってぇ邪魔しにくるだろ?」
「彼女…いたの……?」
「そりゃあ年頃だしな」
嘘だ。居る訳がねぇ。物心がついた頃から***の事を思っていた。逃げる為に他の女に逃げた事もあった。けど***以上に好きになれる訳もなく何もしねぇで直ぐ別れたが。
急に何も言わなくなった***に背を向けダンボールに荷物を詰めていく。ある物を見つけ手が止まる。形のいびつなヌイグルミ。小さい時***が作ってくれた物だ。こんなのも大切にしてたんだな、俺…
懐かしい物を見つけ思わず小さく笑っていると背中に衝撃が。その衝撃と共に細い腕が俺に抱きつき離そうとしない。油断しだ自分にイラつきつつその腕を離そうとするが離れる気配がない。そればかりか強くなる一方だ。
「出て行かないでよ…」
か細い声に直ぐにでも答えたい。俺だって出て行きたくねぇ。***の側に居てぇ。けど側に居ると気持ちを隠せる気がしねぇ。実際、今もギリギリの所で理性を保っているのを知るよしもしねぇ***は俺を離さない。
だがこのままだと気持ちを言ってしまいそうになる。ここで言ったら俺の今までの我慢が台無しになる。
「離せよ……荷造り出来ねぇだろ」
ほんとは離したくねぇ。抱きしめてぇ。気持ちも今すぐに伝えたい。が、気持ちを言った所で***は俺の事は兄としか思ってねぇんだ。困るのは***なんだ。無理矢理腕を離した時、聞きたかったような聞きたくなかった言葉が***の口から聞こえた。
「好きなの……エースが好きなの…。だから…出て行かないで…」
その言葉に離そうとしてた手が止まる。期待するな。これは兄としてだ。
自分に必死に言い聞かせているのに、人の気も知らねぇ***は折角離した腕をまた俺に巻き付かせてくる。
「いやだ…離れたくない…」
俺の理性なんてあてにならねぇんだよ。ならねぇから家を出ていこうとしていたのに、こんな事されたらどうなっても俺が悪くねぇよな………
そう自分自身に言い聞かせ、何とか保っていた理性なんて吹っ飛ぶ。吹っ飛ぶと同時に***をベットに押し倒し、額と額をくっ付け抵抗されないように両腕も押さえる。
「……人の気持ち知らねぇで…あんま煽るな…」
何が起きたのか理解できていない様子の***にお構いなしに気持ちを伝える。口を開く度に押さえている腕の力が強くなるが、そんな事どうでもいい。もう抑えが効かねぇ。
「俺がどんだけお前の事好きか分かってんのか…。俺がどんだけ気持ちを押し殺していたか分かってんのか…。お前が俺をしたって近付いてくる度、どんだけいい兄でいようと頑張ってたと思うんだよ………」
「エース…」
「お前の好きと俺の好きの意味はちげぇんだよ。」
もうダメだ…。いい兄ですら居られねぇ。今まで我慢していた事がパアだ。明日で卒業だったのに。けどもう止められねぇんだよ。
額をつけたまま目を閉じる。後10秒、このまま…。10秒たったら離れ***の前から姿を消そう。そう決め心の中で数を数え始めた時、唇に違和感を感じた。
目を開けると***のドアップ。ビックリして勢いよく起き上がると「エース」と***が俺を呼ぶ。頬が少し赤く、さっきまで怒っていた筈の表情が嘘のようだった。
「私はエースが好き。意味はエースと一緒だよ。ずっと好きだったの」
「は……?」
間抜けな声を出す俺を笑う***に、起き上がったばかりの体制を元に戻す。さっきまで押さえていた腕を離し優しく頭を撫でてやると嬉しそうに微笑んでいた。
- もうどうにでもなれ -
とりあえずジジィんとこ行くぞ…
ふふ、はーい!
***お前なあ……、事の重大さ分かってんのか?
エースと一緒なら大丈夫だって!
たく…(ぜってぇ幸せにするから…)
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