ACE | ナノ

▽ もう疲れたの


リクエスト : 大丈夫だよね?続編
※ 甘い要素無し。





“また会おうぜ”



この一言が私をモヤモヤさせる。引っ越して1ヶ月経つが今の所何も起きない。何も起きないのは有り難いけど怖くて仕方がない。こうして外に居ると見つかるんじゃないか、もしかして後をつけられて居ないか…不安な気持ちが止まらない。


「おい!***!!!」


その大声と目の前に男性のアップに思わずビックリする。


「たく、折角彼氏と久々の外デートだっていうのに浮かねぇ顔しやがってよ」
「ご、ごめん……。ちょっと考え事してた…」
「………どうせあの、ストーカー野郎の事だろ?いい加減忘れろよ」


ため息を付きながらコーヒーを飲む彼氏ことタクヤ……。元々は友達だった彼が彼氏になったのは、つい最近だ。引越しを終えてからも不安な毎日だった私を彼が支えてくれた。告白され、一度は断ったけど「俺が守ってやる」と言ってくれた彼を信じる事にした。信じると言っても私はただ、不安を和らげる気持ちのが強いけど。その気持ちを伝えたうえで「それでもいい。利用しとけ」と笑顔で言ってくれて気持ちが少し軽くなった。


だけどいつもお互いの家ばかりのデート。何故なら…エースさんに遭遇するのが怖かったから。今日は流石に家ばかりは悪いと思い外に出たものの不安の方が強くて考え事ばかりしてしまった。


「ごめんね?怒ってる…?」
「………いや、***が笑ってくれたら俺は十分だ」
「ぷ、何それ…」


躍けて言う彼に笑うと、釣られて彼も笑う。
ああ、幸せだな。純粋に彼との日々が私にとって支えになっている。前に進もう。私には彼が居る。大丈夫。
目が合うとニッコリと笑う彼の頬にチュっと触れるだけのキスをするとビックリしている。


「これからもよろしくね」
「は、え?ええ!?」


驚く彼を見てクスクスと笑うとクシャクシャと照れ隠しのように乱暴に撫でられる。


「今日はもう帰んぞ」


顔の赤いまま言う彼の後について帰宅する。家の近くまで送って貰い彼が見えなくなり鞄から鍵を探していると聞きたくない声が聞こえた。


「へえ、なに彼氏?」


折角見つけだした鍵が地面に落ちる。震えだす手で鍵を拾おうとすると横から男性特有の少しゴツゴツした腕が先に伸び、私より先に鍵を拾う。その腕が私の目の前まで伸びて震える私の手を優しく握る。


「はい、落としたよ。***さん?」


胡散臭い笑顔で言う男……。そうエースさんだ。
握られた手を早く振り払いたいのに怖くて出来ない。そんな私に気付いたのかワザとらしく目線を私に合わせてくる。


「もしかして俺に会えたのがそんなに嬉しい訳?こんなに震えちゃって可愛いねぇ」
「そんっ……そんな訳ないでしょ!!離して!!」


人を馬鹿にしたように言う彼の腕を振り払う。だが強い力で振り払いきれない。それどころか腕を掴む力が強くなる一方だ。


「たくよーいきなり居なくなるんだもんなあ。ひでぇもんだな、全く。まあ、また見つけれたからいいけどな。てか久々の再会なんだぜ?そんな怖い顔しなくてもよくねぇか?」
「……誰のせいでそんな顔になっていると思っているの…」
「そりゃあ、俺のせいだろ?てか俺がそうさせてると思うと嬉しいねぇ…」


ニヤリと嫌な笑みを浮かべる彼。最悪だ。せめて普段から何かしら変装でもしていたら…


「あ、今変装でもーとか思ってる?それ無駄だから。俺の情報網舐めねぇ方がいいぜ?俺から本当に逃げ切りたかったら整形でもしねぇ限り無理だ。ま、整形しても見つけられねぇ訳でもねぇがな」


そう言う彼の顔は自信に溢れていた。この顔は…嘘ではないだろう。実際こうして今も居場所がバレている。どうする…また引っ越す?けどまた直ぐ見つかる……。


もう私はこの人から逃げられ「なあ」


「怖い顔してるが、本当にあいつ彼氏な訳?」
「貴方に関係ないでしょ」
「いーや、あるな。俺の***さんに手ぇ出した罪はデケェからな。」
「気持ち悪い事言わないで。誰があんたのっ…」
「あいつは辞めておいた方がいいぜ」


そう言うとそれまで掴んでいた手が離せれる。離されると同時にフと彼を見ると眉間にシワが寄っていて初めて見る顔をしたエースさんが居た。
その険しさに思わず後退りするが我に戻る。私を騙そうとしているんだ。私はもう騙されない。


「彼は貴方みたいな人じゃない!」
「ふーん…じゃあ確かめてみるか?」


その言葉の意味が分からずにいると、どこかに電話を駆け出す彼。今のうちに逃げえようとするが「ん」と差し出したスマフォにはタクヤと誰かが映っていた。その画面からは信じがたい言葉が。


『で、お前が言ってた女どうなった』
『ああ、順調っすよ。俺の事信頼しきったみたいで笑えてきますよ。』
『おめぇも酷いよな。ほんと。自分の借金返す為に女売ろうとするなんてよ』


今なんて…?売る?
私が聞いているなんて思いもよらないだろうタクヤと男がペラペラと私の事を話している。あんなに親身になって私の傍で支えてくれていたのに、彼は自分のお金の為だったなんて。


「な?言っただろ?まあ、安心しろよ。***さんを悲しませるような奴は俺が消してやるからさ」


ウインクをしながら言ったかと思うと電話の相手に「やれ」とエースさんの一言が。その一言をキッカケにスマフォからは、殴られる音と泣き叫ぶ男達の声が聞こえた。
それを怖いとも、タクヤに裏切られ悲しいという気持ちにもならなかった。それどころか、もう何を信じればいいか分からない。信じても裏切られる。


「だから大人しく俺にしとけよ。俺なら***さんを悲しませないぜ?しかもこんな男みたいに裏切らねぇ」
「よく言うわよ。騙して盗撮器とか仕掛けていた人が」
「ばっかだなあ。言い方変えればそんだけ俺が***さんの事好きだって事だろ?常に***さんの事が知りてぇ訳。そんなに疑ってるなら命をかけてもいい」


何を子供みたいな事を…その言葉こそ上辺だなんて基本中の基本なのに。


「あ、信じてねぇだろ?大丈夫、大丈夫!俺が***さんを裏切ったら俺を殺せばいい。勿論、俺を殺しても***さんが罰せれないようにしてあげるし」
「は!?何を言って…」
「その代わり***さんの、これからの人生を俺にくれよ。うんと幸せにしてあげっから。もう諦めなよ。***さんは俺から逃げられねぇんだからさ、早く俺のものになりなよ」


そう言って私の目の前に手を差し出す彼。そうだ、私はもうこの人から逃げられない。
差し出された手に自分の手を乗せると引っ張られエースさんの胸元へと引き寄せられる。耳元で悪魔のような囁きをされたが、もう逃げる事も他の誰かを信じて裏切られるのは疲れた。


「大丈夫。俺は***さんを裏切らないよ。だって狂っちまう程惚れてるから。***さんの喜ぶ顔も悲しむ顔も……***さんのその細い首を俺が絞めて苦しむ顔も、痛がる顔も…想像するだけで堪んねぇよ…!だから安心して俺に***さんも命預けてよ」


何か意味を込めたような笑みで、私の部屋の鍵を使いドアを開け私を部屋へと連れて行く。もうどんなに歪んだ愛情でもいい、私を必要としてくれるのなら……






- もう疲れたの -




だからこの男から逃げる事は諦めた。
そして誰かを信じる事も疲れたの…。






なにこれ(^◇^)

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